私たちが愛する犬のお口には、可愛い(そして鋭い)歯があります。今日は飼い主として知っておきたい犬の歯についてのお話です。
1. 犬の歯は何本あるの?
成犬は42本(上顎に20本、下顎に22本)、子犬は28本の歯をもっています(上顎14本、下顎14本)。
前の歯は切歯と呼ばれるもので、上下に6本の合計12本あります。これは獲物の肉を骨から掻き取ったり、モノを拾うために使われます。
- 犬歯:牙のような、獲物に傷を負わせることができる鋭い歯です。上下に2本ずつ、計4本あります
- 前臼歯:犬歯の奥に上下8本ずつある歯です。食べ物を咀嚼するときに使われます
- 後臼歯:前臼歯の奥にある歯で、上顎に4本、下顎に6本の合計10本あります。食べ物を噛み砕いたり、植物を臼のようにすり潰すのに使われます
2. 乳歯の生え始め、生え変わりはいつ?
乳歯は生後3週齢ほどで生え始め、8週齢ごろに生えそろいます。永久歯への生え変わりは4ヵ月齢ごろからで7〜8ヶ月齢ごろには永久歯に変わります。永久歯が揃ったときに乳歯が残っているのは乳歯遺残(にゅうしいざん)と呼ばれる状態で、小型犬によく見られます。残った歯が永久歯の成長に影響する場合、または他の歯科の問題の原因になっている場合は抜歯などの処置を勧められることがあります。
3. 犬の噛みつく力はどのくらい?
Stanley Corenのブログによれば、マスティフの咬合力は552PSI(ポンド毎平方インチ)と測定された研究があるそう。ちなみに平均的な犬の咬合力は250〜325 PSIで、平均的な人間の咬合力は約120〜220 PSI。咬合力最強アニマルはシャチで、その力は19,000PSIにのぼるとのことで、自然界全体でみればそれほど強くはありません。
2009年の研究では、咬合力は頭が大きければ大きいほど、顎が広いほど高いことが示されています[2]。
4. 犬は虫歯にならないって本当?
残念ながら犬も虫歯になりますが、それほど一般的ではありません。人間に比べて糖質の少ない食生活であること、口腔内細菌の違い、口の中がアルカリ性に傾いていること、および歯の形状などから、虫歯になりにくいのです。しかし、糖分を含む食べ物をとるようになった現代ワンコは、食べカスの付着により菌が繁殖し虫歯を形成することもあるのです。
虫歯治療は人間の治療とほぼ同じ。損傷した部位を削り取り、充填剤を詰めて修復します。虫歯が歯髄にまで進行している場合は、歯髄除去や抜歯などの処置が選択されます。
5. 歯から年齢を推定できるって本当?
若い犬では、どの歯が出ているかを観察することでおおよその年齢を推定することが可能です。たとえば子犬の切歯は、典型的には4〜6週齢で生え、12〜16週で永久歯に生え変わります。犬歯の乳歯は3〜5週間で生えはじめ、12〜16週間で永久歯に生え変わります。また、全ての歯が永久歯に完全に生え変わるのはだいたい7〜8ヶ月齢ごろです。
永久歯に生え変わったあとは、歯から年齢を推定するのはそれほど簡単なことではありません。歯の磨耗量を測定するという方法もありますが、その結果は生活環境によって大きく左右されるからです。3歳の犬でも生涯を野で過ごしていたなら、磨耗どころか歯を失っている可能性もあるからです。
6. 永久歯はもう一度生えてくる?
人間と同じで、犬もなくなったり傷ついた歯を再び成長させることはできません。ですから犬の歯も、人間の歯と同様に十分にケアされる必要があります。
生涯の中で何度も歯が再生する動物には、サメ、ゾウ、ウマ、ブタなどがいます。サメの歯は獲物をとるときに抜け落ちても、控えの歯が前に出てきて空いたところを埋めてくれます。中には10日で一列すべてが生え変わる種もあるそうです。
7. 大型犬と小型犬、歯の問題に違いはあるの?
大型犬は大きいがゆえの問題があり、小型犬も小さいがゆえの問題を抱えています。
小型犬は、歯並びが悪かったり不正咬合とよばれる状態になるコが多く、歯垢や歯石がたまりやすいため、これに関連する歯科問題を抱える傾向にあります(とくに短頭種では問題が多い)。また、前述の乳歯遺残は比較的小型の犬にみられます。
大型犬は、アグレッシブな噛み噛みをする傾向があるため、歯の破損や磨耗、外傷の問題、そしてこれらを原因とする炎症などの問題を抱えることが多いそうです[4]。
おまけ:お口トラブルについて
・犬のお口トラブルはどうやって見つけるの?
愛犬のお口や息が顔を背けるほどに臭いのならば、危険信号がともっています。バラの香りがしている必要はありませんが、顔を寄せ合うことができる程度の臭いでなければ、なんらかの問題が発生していると考えて差し支えないでしょう。
唇を持ち上げることができるのなら、ペロリとめくってみましょう。歯に汚れがついていたり(歯石や歯垢)、歯茎の腫れや赤み、出血がないかどうかを確認します。どの兆候も、お口トラブルを示すものです。
・犬にもお口の癌があるの?
残念ながら口腔腫瘍(ガン)の発生率は比較的高く、発生する種用の6〜7割は悪性だと言われています。悪性腫瘍では悪性黒色腫(メラノーマ)、扁平上皮癌、線維肉腫が多く報告されており、顔が変形したり、摂食障害や呼吸障害の症状があるために生活の質が大きく低下します。愛犬の歯茎や頬の内側にシコリ、腫れ、組織の変色を確認したら、すぐに検査しましょう。
・なぜ歯科治療には全身麻酔が必要なの?
全身麻酔をすれば犬が動き回ることはないので、犬も獣医師も安全を確保したうえで、必要な歯科治療を行うことができます。動き回らないことは検査の段階でもメリットがあります。奥歯や舌側の歯面の検査もしっかりできますし、より良いレントゲン写真(X線)を撮ることもできるのです。
もちろん、治療に伴うストレスや痛みを排除すること、誤嚥から気道や肺を守ることができるというメリットがあります。
麻酔は常にリスクを伴いますが、最近では薬剤や機材が発達し、モニタリングも丁寧に行う病院がほとんどです。100%安全とはいいきれませんが、リスクは限りなく小さいと考えて良いでしょう[5]。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Dental Anatomy of Dogs
[2] Dog Bite Force: Myths, Misinterpretations and Realities | Psychology Today
[3] 動物の歯の話 – 8020推進財団
[4] Dental Problems Differ for Large and Small Dogs – American Kennel Club
[5] 日本小動物歯科研究会- 『無麻酔で歯石をとる?!』
Featured image creditLucia Romero/ shutterstock