動物病院は犬のストレス〜叱らずにストレスを緩和する工夫と努力を

サイエンス・リサーチ
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イタリアで「動物病院で犬はストレスを感じるのか」に関する調査が行われ、約30%の犬が非常に高いストレスを感じていることがわかりました。

約30%の犬が「高いストレスを感じる」

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image by Austin Community College / Flickr

調査を行なったのはピサ大学のChiara Mariti氏(DVM, PhD, Dipl. ECAWBM)らのチーム。これまでに、診察を受ける犬の行動を観察し分析する調査[1]と、飼い主に対する質問紙調査[2]が行われ、それぞれ論文として発表されています。

予備調査として行われた行動調査[1]では、動物病院を訪れた45匹の健康な犬について、その行動をビデオで撮影し分析を行う方法がとられました。犬は待合室で約3分過ごした後に診察室に入り、飼い主が獣医師とやりとりする間、診察台などで待つことになりますが、この様子が記録され飼い主と行動学者がビデオを分析するというものです。

調査対象のうち30匹の犬は、分析対象とした時間の約20%の間、ストレス行動を続けました。待合室では半数以上の犬が、舐める、ハァハァする、耳を倒す(下げる)、鳴く、グルーミングする、あくびをするなどストレス行動を4つ以上見せたということです。約30%の犬は非常に強いストレスを感じていると、飼い主と獣医師は判断したそうです。

この行動調査の後に行われた本調査[2]では、飼い主への質問紙調査の手法で犬のストレス調査が実施されました。906人の犬の飼い主を対象とした調査で、ほとんどの飼い主は自分の犬が動物病院で「ストレスを感じている」と回答。6。4%の飼い主は犬に噛まれた経験をもち、11.2%が唸り声を挙げられる、または軽く噛まれた経験があると回答しました。

興味深いのは、40%近くが「犬は到着前に(車の中などで)、動物病院に連れて行かれることを理解している」と回答したこと。7.4%は、家を出る前から気付いているというのです。病院到着後に自分の犬がストレスを感じていると回答したのは52.9%でした。犬によっては、家を出る前から診察が終わるまでの間、ストレスにさらされていることを示しています。

獣医師について、診察の時に犬に話しかけるのは53%、犬の名前を呼ぶと答えたのが40%で、撫でたりさすったりすると回答したのは53%でした。フードが診療の助けになるとはよく言われることですが、(診療時の犬のうち)37%は食べ物を受け付けないという結果もあるため、「獣医師はフード以外のストレス緩和方法を考えるべき」と述べられています。

犬のストレス行動を理解し、緩和する努力を

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image by Joe Futrelle / Flickr

この研究について、論文の筆頭著者である Mariti氏は、犬のストレス行動について理解し、これを緩和する努力が飼い主と獣医師の両方に必要だという旨のコメントをしています[4]

「飼い主さんには、動物病院に行くこと、診察を受けることに慣れさせることをお勧めします。子犬のうちから、全身を触られることや体温計測、耳の診察に慣れさせておくと良いでしょう。その時にポジティブな刺激(オヤツや褒めること)とを関連づけておくことを忘れずに。

(拒否行動を見せた時に叱らない飼い主がわずか14%だったという結果を受けて)もし拒否行動を見せても、叱ることのないようにしてください。問題がどこにあるかを理解し、優しく解決の方法を模索することが大切です」

「患畜の幸福を守ることを第一に考えるというのが獣医師へのアドバイスです。獣医師の仕事範囲は、飼い主の啓蒙からクリニックの環境整備まで非常に広範囲ですが、これらの全てが患畜の幸福に繋がるのです」

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飼い主によるストレス高低の判断は、「椅子の後ろに隠れる」「動かない」などの拒否行動の有無により行われたそうで、その他の小さなシグナルは見落とされがちだということも、論文の中では指摘されています

小さなストレスサインも見逃さず、声かけやオヤツなどで元気付けてあげるようにしてみてくださいね。少しだけでも動物病院でのストレスが緩和されるよう、心を砕いてあげましょう。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Mariti, C., Raspanti, E., Zilocchi, M., Carlone, B., & Gazzano, A. (2015). The assessment of dog welfare in the waiting room of a veterinary clinic. Animal Welfare, 24(3), 299-305.
[2] Mariti, C., Bowen, J. E., Campa, S., Grebe, G., Sighieri, C., & Gazzano, A. (2016). Guardians’ Perceptions of Cats’ Welfare and Behavior Regarding Visiting Veterinary Clinics. Journal of Applied Animal Welfare Science, 1-10.
[3] Companion Animal Psychology: Canine Stress in the Vet’s Waiting Room
[4] Companion Animal Psychology: Study Shows Just How Stressed Dogs Are at the Vet’s

Featured image credit David Gannon / Flickr

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