犬の肛門周辺には、2つの小さな腺または嚢があり、それぞれ肛門腺・肛門嚢とよばれます。犬によっては肛門腺に分泌液が詰まったり、炎症を発症するなど、痛みや不快感に苦しむことがあります。
[icon name=”comments” class=”” unprefixed_class=””] この記事の監修者
動物医療センター もりやま犬と猫の病院 淺井 亮太(あさい りょうた)院長
2003年酪農学園大学を卒業し、愛知県の動物病院に勤務後、動物医療センターもりやま犬と猫の病院設立。動物病院の院長として一つひとつの命に真剣に向き合い、救うことに全力を尽くすことをモットーに日々の診察に奮闘中。
肛門腺・肛門嚢とはなんぞや
肛門腺(または肛門嚢)は、犬の肛門の左右両側に一対存在する比較的小さな腺です。肛門括約筋の内側と外側の間の肛門を中心として4時と8時の方向にあります。
肛門嚢には皮脂腺やアポクリン腺(肛門嚢にある腺をまとめて肛門腺という)が並んでおり、これらの腺組織がドロッとして悪臭のする油っぽい分泌液を排出します。この分泌液には個体情報(おおよその年齢、健康状態、ヒートの時期など)が含まれており、便に独特のニオイを与えます。他の個体に挨拶をするとき、真っ先にお尻のニオイを嗅ぎに行くのもこのためです。
犬、猫、スカンク、オポッサム、ビーバーなどにみられます。スカンクやオポッサムは自分の意思で目的をもって分泌液を外に出すことができますが(スカンクは捕食者に対する防御として、オポッサムは死んだふりをするときに)、家畜化された犬ではこれを積極的に使うことはできません。
犬の肛門腺の役割として、個体識別やテリトリーマーキングのほか、分泌液が硬い便の通過を助けるという説があります。匂いマーカーは野生に暮らしていたときほどの意味をもたないため、現代の犬(および猫)の腺はとくに必要のないものという人もいますが、潤滑油としての役割があるなら、それはそれで必要なのかもしれません。
肛門腺の問題
適度な便をつくれる健康な犬では、便が通過するときに直腸壁に自然な圧力がかかることで、分泌液が排出されます。犬によっては恐怖やストレスを感じたときに排出するものもあります。
しかし、排出を自然に行えない犬もいます。ある研究によれば、犬の12%が肛門腺疾患を抱えています。小型犬で特に問題になりますが、サイズに限らず全ての犬で一般的です。この問題に影響する要因には、以下のようなものがあります。
- 犬の品種・サイズ(小型犬、トイ品種、コッカー・スパニエル、バセット・ハウンド、ビーグル)
- 健康状態・投薬の影響
- 年齢
- 便の状態(適当な硬さがない状態。慢性的に軟便な犬はリスクがより高い)
- 食生活(腸を活性化させるような食生活ではないこと)
- 肥満・脂肪の多い犬(肛門部の余分な脂肪が腺にかかる圧力を軽減するため)
- 遺伝的な奇形(一部の個体は腺が細く生まれることがある)
- 病気や怪我、アレルギー
分泌ができないことにより引き起こされる問題は、肛門や会陰周辺の炎症や腫脹です。これは腺の詰まりを悪化させ、細菌を増殖させて痛みを引き起こし、さらなる膨張の原因となります。長期的な詰まりや腫れは、感染症や発熱、そして膿瘍の原因にもなります。
肛門腺に問題を抱える犬は、次のような兆候をみせます。
- いつもと比べて頻繁に肛門まわりを舐める・噛む
- 尻尾を追う・変わった座り方をする(不快を解消しようとする行動)
- お尻を地面に擦り付ける
- 肛門周りの悪臭
- 肛門、直腸の周りに腫れ
- 肛門からの分泌液が茶色または灰色(正常分泌液は黄色〜黄褐色)
- 肛門からの分泌液に血液や膿が混ざる
肛門腺の問題を防ぐ方法
肛門腺の問題を未然に防ぐため、あるいは問題の兆候がみられたときにできることには、以下のようなものがあります。
・獣医師に相談する
肛門腺の問題が心配なとき、そしてすでになんらかの問題がみられるときは、獣医師に相談するのが解決への近道です。健康問題の解決を目指してフードやサプリメントなどを取り入れる場合には、必ず獣医師に相談しましょう。
・栄養豊富な良質なフードを与える
肛門腺を適切に機能させるためには、適切な量の繊維を身体に入れる必要があります。現代ワンコは平均的に繊維不足だといわれます。適当に繊維を含む良質なフードを与えることで、肛門腺を適度に圧迫する良い便をつくるようにしなければなりません。軟便解消のために穀物を含まないフードを推奨する専門家もいます。
・人間の食事を与えない
人間の食事は脂肪が多く、犬にとっては余計なものが含まれるため、軟便の原因になります。良いウンチを作れない犬は、肛門腺に問題を抱えるリスクも高くなります。
・サプリメントを活用する
肛門腺をサポートすると考えられているサプリメントがいくつかあります。これらを取り入れることで問題解決に向かうことがあるので、希望する場合は獣医師に相談しましょう。
・専門家に”肛門腺絞り”を依頼する
獣医師やグルーマーに”肛門腺絞り”を依頼しましょう。専門家であれば犬を傷つける可能性が低く、迅速かつ適切に行うことができます。
・(参考)摘出手術…?合併症のリスクが高い
手術により肛門腺を取り除くこともできますが、腺を取り除くのは非常に難しく、犬と猫では合併症の割合が高かったため、現在では非常にマイナーです。
”肛門腺絞り”を自分で行う
犬によっては定期的に”肛門腺を絞る”というケアが必要なコもいます。
定期的に動物病院に連れて行くことは難しい場合や、定期的にグルーミングを必要としない犬種の場合は、自宅でのケアにチャレンジするのも良いでしょう。
ただし、いくつかリスクがあることは、心に留めてチャレンジしましょう。”肛門腺絞り”は、慣れてしまえば難しいものではありません。が、以下のようなリスクもあるため、全ての専門家が自宅でのケアを推奨するわけではありません。
- すでに感染症を発症している場合は、圧力をかけることで腺が破裂し、出血や痛み、合併症を引き起こすことがある
- ”肛門腺絞り”の適切な頻度はわかっていない。頻繁に絞ると、細菌の増殖が促されることがある
- 分泌液が溜まっていないのに絞ると、不要な刺激を与えることになるため、炎症の危険性が高まる
すでに腫れがみられる場合や、定期的にグルーミングをするワンコは、必要以上に絞って傷つけることのないように注意しましょう。ただしお尻のチェックは、毎日でも毎週でも頻繁に行い、問題があったら早期に発見できるようにしましょう。
- お風呂場や洗面所など、すぐに洗い流せる場所で行う(カーペットにつくと、かなり臭い)
- ラテックスの手袋を着用し、肛門部分に使い捨てタオルやキッチンペーパーなどを当てがいつつ、肛門腺(肛門を中心として4時と8時の方向)に圧力を加える
- 肛門部分をウェットティッシュなどで清潔にする
- オヤツ。そして熱烈なハグ。あるいは最上級の褒め言葉をプレゼント
- 素早く一度で終えること。このプロセスはなんども繰り返さないこと
肛門を清潔に、健康に保つことは、彼らの毎日の幸せに直結することです。こじらせてしまうと、彼らはひどい痛みに耐えなければならない上、ほかの問題を引き起こすことにもなりかねません。
できればウンチを拭くときや、お散歩終わりに足を洗うときに、可愛い肛門が綺麗で元気かを確認してあげましょう。問題は早期に発見できるほど、解決も早くなるものです。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Anal Gland Problems in Dogs (and Cats) | petMD
[2] Anal gland impaction in dogs: treatment & prevention
[3] Taking Care of Your Dog’s Anal Glands
Featured image creditChaikom/ shutterstock
[icon name=”heart” class=”” unprefixed_class=””] 以下の団体の協力により記事を作成しました
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