人間と犬との感情的なつながりは、私たちが考えるよりもっと早くから存在していたのかもしれません。
研究者は1万4千年前の墓を再調査し、埋葬されていた犬が人間によって長い間世話されていたことを発見しました。
報告書は、2月3日付のthe Journal of Archaeological Scienceに掲載されています。
今回、再調査の対象となったのは、1914年に発見されたドイツのオーバーカッセル遺跡。男女1体と犬の骨が発見された遺跡は、C14年代測定により1万3千300年から1万4千年(ヨーロッパ後期旧石器時代のマドレーヌ文化期)のものと推定されています。
石器時代における犬の家畜化は、狩猟採集民を理解するうえで重要な意味をもつとされています。これまでの仮説では、人間が出したゴミを食べるために集まったオオカミの中から攻撃的でないものが家畜化されたというもので、人間が家畜化した理由は実利に供するためだと考えられていました。
しかし今回の発見は、犬が”使えない”状態になったあとも、人間が面倒を見ていたことを示すものです。これまでの仮説とは異なり、感情的な繋がりがすでに形成されていたとする内容で、大きな注目を集めています。
さてはて、なぜそんなことが1万4千年も前の骨からわかるのでしょうか。もう少し詳しくみてみましょう。
オーバーカッセルの犬が埋葬されたときの推定年齢は、27〜28週齢。口腔内の病変は、犬がイヌジステンパーを発症していた可能性を示しています。イヌジステンパーは高い伝染力を有する疾病で、現在でもワクチン接種を受けていない犬は死ぬ可能性の高い重病です。
発症の時期は歯のエナメル質から推定されています。歯の形成期に障害因子が作用すると、エナメル質の質や構造や形態に異常が引き起こされます。ここで生じた異常は修復されないため、進化学や人類学などでは、個体の健康や栄養状態を示す指標として有用だと考えられているのです。
オーバーカッセルの犬のエナメル質の表面の欠損は、19週齢、21週齢および23週齢ごろにみられます。このことから、19週齢ごろに病気を発症し、その後2回の大きな病変を経験したというのが、研究者らの見立てです。
人間がケアしたという点は、イヌジステンパーという病気の重篤度と経過からの推察です。イヌジステンパーにかかった犬は、最初の1週間で高熱、食欲不振、脱水、疲労、下痢、嘔吐を経験します。次の段階では咽頭炎や肺炎を発症し、90%はこの段階で死に至ります。オーバーカッセルの犬は発症から3〜4週間は生きていたとみられますが、この期間を犬が独力で生き延びたというのは、ちょっと考えづらいというわけです。研究者は報告書の中で「おそらく、犬を暖かく保ち、下痢や尿、嘔吐や唾液などを清掃して清潔に保っていた」と見解を述べています。
「病気の間、犬は作業動物として役には立たなかっただろう」と話すのは報告書の筆頭著者のジャンセンズ氏。 「犬が人と一緒に葬られたという事実とともに、14,000年前から人間と犬の間に特別な関係があったことを示唆している」
自分たちと同じ場所に犬を埋葬したということからも、人々が犬を大事にしていたことが伺えますよね。ちなみに、同じ場所に埋葬されていた犬は2匹もいて、彫刻された骨器などのいくつかの工芸品も埋められていました。
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深い絆で結ばれた警察犬とハンドラー、法改正で同じ場所に埋葬される(アメリカ) | the WOOF イヌメディア
ペットと人間を同じ場所に埋葬することを禁じていた米インディアナ州。この法律が改正され、街のために働いてきた警察官とK-9が同じお墓に眠ることができるようになったそうです。