犬は嗅覚にとても優れていて、人間や動物の匂いのほか、麻薬や電子機器から病気まで、あらゆるものの匂いを覚えることができます。その素晴らしい能力があるからこそ、私たちは彼らに覚えた匂いを正確に検知するよう訓練することもできるのです。
私たちは皆、犬が優れた鼻を持つことを知っていますが、匂いをどのように認識あるいは識別しているかについては、あまりよく知られていません。彼らが嗅覚をどのように知覚しているのかという問題は、あまり探求されていなかったのです。
2018年3月、ドイツの研究者らは、犬は自分たちが探している対象の心的表象をもっていると発表しました。研究者は犬たちが、嗅いだ匂いを心に描き柔軟に探索していようだとまとめています。
研究を行ったのは、ドイツにあるMax Planck Institute for the Science of Human HistoryとFriedrich Schiller Universityの科学者たち。研究ディレクターであるJulianeBräuer博士とチームは48匹の犬と共に実験を行いました。48匹のうち25匹は警察または捜索救助隊との訓練を受けた犬、23匹は訓練を受けていない家庭犬でした。
予備テストが行われ、それぞれの犬のお気に入りのオモチャが2つ決められました(お気に入り=素早く回収する)。そして本番では、2つのオモチャのうちの1つの匂いの跡をたどる試験を4回受け、その様子が撮影されました。試験において犬たちは、匂いをたどったのちに(1)匂いの跡と同じ匂いのするオモチャ(通常:the normal condition)、(2)別のオモチャ(驚き:the surprise condition)のどちらかを発見することになります。発見したオモチャを回収する(retrieve)ことができるのか、回収するときの様子はどうなのかなどが観察されました。
実験参加犬の半数は通常の条件を与えられ、半数は驚き条件を与えられテストされました。
このうち、驚き条件があたえられた犬は、最初のテストでは戸惑い、匂いの跡と同じオモチャの探索を続けました。しかし、2回目以降は見つけたのが別のオモチャであっても躊躇なく回収したそうです(研究者らはその理由について、どちらのオモチャでも報われると思った、匂いが移っていたからだと推定している)。
驚き条件の最初のテストにおいて犬が戸惑いをみせ、探索を続けたことについて、Bräuer博士は「最初のテストの結果は、犬が香りを追跡する際に対象物の心的表象を有していることを示唆している」とコメントしています。
表象とは、「対象に関して心理学的過程をへて抽出された情報を長期記憶に保持するための心的形式の総称」です。表象はざっくりと外的と内的に分類されることがあります。内的表象、すなわち心的表象は人の心の中に存在する表象(記号やシンボル)を指すと言われます。
人だけでなく動物でも、心にイメージをもつことが示されています。先行研究では、たとえば馬は、飼い主や他の馬についての心的表象をもつことが示されました。一方で犬、ゾウ、ネズミのような嗅覚に強く依存する動物では、感覚が認知にどのように結びついているかの研究はあまりないのです。
本研究でBräuer博士らは、「犬は嗅いだ匂いのイメージを作り記憶し、これにもとづき探索している可能性がある」ことを示唆していますが、これはまだまだ検証されなければならないものです。しかし、犬が脳にイメージをもつことで匂いを長く記憶しているというのは、なんとなく頷ける仮説ですよね。
犬の脳裏に”匂いのイメージ”が広がるのなら、それがどういうものなのかは是非みてみたいもの。もしそのイメージが、私たちが映像から得るような喜びや感動を含むものであるのなら、たくさんの匂いを嗅がせてあげなければとも思います。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Bräuer, J., & Belger, J. (2018). A ball is not a Kong: Odor representation and search behavior in domestic dogs (Canis familiaris) of different education. Journal of Comparative Psychology.
[2] Ball or stuffed toy – do dogs “know” what they’re smelling? | Max-Planck-Gesellschaft
Featured image creditSimonVera/ shutterstock