「犬が苦手だと噛まれやすい」とは時おり聞かれる言説ですが、あながちウソとは言い切れないようです。
イギリスで行われた研究によれば、不安神経症の人は犬に噛まれる可能性が高いのだそう。また男性は女性より、多く犬に噛まれていたことも明らかになりました。
385世帯、694人を対象にした調査
研究が行われたのは、約850万の犬が暮らすイギリス。人口約6564万人に対し犬が約850万ですから、単純に割り算すると、7-8人に1人が犬を飼っていることになります。
犬が多ければ咬傷事故も多いはずですが、その実態はよくわかっていません。咬傷事故のデータは病院の記録に基づくもので、噛み傷以外の怪我も含まれますし、病院に行くほどでもない小さな事故はこの中には含まれません。一方で咬傷事故の実態を明らかにすることは、事故の予防策を講じるうえでも非常に重要です。
そこでイギリスのリバプール大学の研究者は、咬傷事故の予防と政策立案に資するため、イギリスのチェシャー市(1280世帯)に住む385世帯694人を対象に、咬傷事故はどの程度起こっているか、また被害者に関連するリスク要因は何であるかを明らかにしようとしました。
調査は質問票により行われ、質問には、犬の所有および噛まれた経験の有無、個人の情報(性別や年齢など)、健康状態と性格評価が含まれていました。性格評価の尺度は、TIPI(Ten Item Personality Inventory)が使用されました。
なお、TIPI-J とは10項目で構成され,Big Fiveの5 つの因子(外向性、協調性、勤勉性、神経症傾向、開放性)を各2項目で測定する尺度のことです。たとえば神経症傾向を測る項目には、「心配性で,うろたえやすいと思う」「冷静で,気分が安定していると思う」があり、回答者はそれぞれに「全く違うと思う(1点)」から「強 くそう思う(7点)」までの数字を選ぶことで回答します[2]。少ない項目で簡便に性格の把握ができるため、世界中で翻訳され使用されています。
1000人のうち18.7人は噛まれている
調査の結果、回答者のおよそ4分の1(24.78%)が、犬に噛まれたことがあると回答しました。調査内で報告された咬傷の件数は301でした。
このうち、見知らぬ犬に噛まれたと回答した割合は54.7%で、噛まれた回数が一度だけと回答した人は57.6%、小児期に噛まれたとしたのは44%でした。
男性は女性より1.81倍多く噛まれており、犬を複数飼っている人は犬を飼っていない人に比べて3.31倍多く噛まれていることもわかりました。
咬傷事故のうち、治療が必要だったのは33.1%であり、入院が必要となったのは0.6%でした。
なお、この調査から推定される咬傷事故の発生は年間で18.7/1000人(10万人あたり1873)であり、これまでに多く引用されてきたデータ(10万人あたり740人と言われていた)の2.5倍以上であることも示されます。
心配性の人は噛まれやすい!?
研究チームはまた、性格評価において、神経症傾向が低い(心配性ではなく、気分が安定していると回答)と評価された人は、噛まれる可能性が低くなることを発見しました。神経症傾向に関する項目の回答が1ポイント変化するごとに、噛まれるリスクが0.77倍減少するというのです。
研究者らは、「この結果により(咬傷事故発生において)性別、犬の数、安定的な性格・精神状態であることが重要な要素であることを確信している」と記載しています。ただし、研究はサンプルサイズが小さく地域が偏っていること、回答者は女性と高齢者の比率が高いことなど、サンプルサイズが小さいことなどから、調査の結果は注意深く解釈される必要があるとも述べています。
注意しなければならないのは、この研究では、神経症傾向の人が「なぜ」噛まれる傾向にあるのかは示されていないという点です。心配性の人は犬の前でストレス反応を見せるのかもしれませんし、犬は不安がちの人の行動を”攻撃”とみなすのかもしれません。神経症の人は神経症気味の犬を飼うため、噛まれるリスクが上がるのかもしれません。様々な可能性は考えられますが、どれも推測でありはっきりしたことはわからないのです。
研究から学べることは、犬だけでなく人のストレス兆候にも注意深くなった方が良いということでしょうか。「犬が苦手」という人に犬を無理に近づけるのはとても危険な行動で、思わぬ事故につながる可能性があるということは心しておいた方が良さそうです。また、「どんな犬でも犬は犬。噛む可能性はゼロにはならない」ということは、いつの時代も変わりません。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Westgarth, Brooke, Christley (2018), How many people have been bitten by dogs? A cross-sectional survey of prevalence, incidence and factors associated with dog bites in a UK community, BMJ Journals
[2] 小塩真司, & 阿部晋吾. (2012). 日本語版 Ten Item Personality Inventory (TIPI-J) 作成の試み. パーソナリティ研究, 21(1), 40-52.
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