犬の性格によって痛みの感じかたに違いはあるのか?(研究)

サイエンス・リサーチ
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犬の痛みの種類や程度を知ることは、怪我や病気の治療において非常に重要です。痛みのケアが適切でないと、治癒に至るまでの時間が長くなるとも言われるほどです。

しかし犬は飼い主にどのくらい痛いのかを言葉で告げることができません。このため獣医師は、行動や生理学的指標によって痛みの程度を判断します。

痛みの定量化と性格の関係

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image by smerikal / Flickr

動物の疼痛の定量化は、怪我や病気の治療方法の決定、福祉基準を満たすケアの提供など、さまざまな理由から必要です。

痛みレベルが高く判断されると、麻酔薬や鎮痛剤が多めに投与され痛みは緩和できる一方で、副作用により別の苦痛が引き起こされる可能性がでてきます。一方、控え目すぎる見積もりは痛みの緩和には不十分で、不必要な苦しみを与えることにもなりかねません。

痛みのレベルを定量化する尺度は、これが正しくテストされ使用される場合は、誤った評価による影響を回避するために有効となる可能性があります。しかし、時間や文脈を超えた安定した行動の個人差と定義される「性格」によって混乱するおそれがあるのです。

ヒトやを対象とした先行研究では、性格により痛みへの反応は異なる(性格と疼痛反応間に関連性がある)という結果が得られています。また、ウマを対象とした予備的研究でも、同様の関連が観察されています。外交的なウマは痛みの行動表現と相関しており、神経症的傾向のあるウマは痛み耐性が低いことが示されています。

つまり、性格によって痛み経験が異なるという可能性があるのです。もし、犬について大きな違いがみられるのなら、尺度の解釈(あるいは設計)もこの違いを勘案しなければ、適切な評価に繋がらないということになってしまいます。

外向的な犬は「痛い」と表現する

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image by waldopepper / Flickr

さて、我らがワンコたちも性格によって、痛みへの反応は異なるのでしょうか?University Centre Hartpuryの研究者らが、この問題に挑みました。

研究に参加したのは、イギリスの動物病院で去勢手術を行った17匹の犬たちです。去勢手術は中程度の痛みを引き起こす一般的な手術であり、健康で若い動物で実施されることが多いため、これが選択されました。

犬の性格の種類を決定するために、飼い主は「モナシュ犬性格アンケート – 改訂版The Monash Canine Personality Questionnaire–Revised (MCPQ-R)」への回答を求められました。これにより犬は、外向性(extraversion)と神経性(neuroticism)に二分されます。外向性の犬は、活動的、興奮しやすい、落ち着きがない犬で、神経性の犬はこわがり、従順、臆病とされています。

痛みは、「ショートフォームグラスゴー複合尺度痛み尺度(the Short-Form Glasgow Composite Measure Pain Scale (CMPS-SF) 」を使って定量化されました。これは声調、傷にどの程度注意をむけるか、可動性、触れたときの反応、その他の反応を定量化するものです。このほか、顔の表情(動画で撮影)、および目の温度の測定などを行い、痛みに対する感情的反応を測定しました。

測定と分析により、以下のことがわかりました。

  • 神経性という性格と、痛み耐性および行動表現の間に関連性はない
  • 外向性の犬では、より顕著に痛みへの行動表現がみられた(外向的な犬は「痛い」と行動で示す傾向がある)
  • 外向性の犬では、左目と比較して、中心温度および右眼の温度の上昇がみられた。目の温度は感情反応を測るために行われたが、疼痛に対する感情反応との関連の理解のためにはさらなる検討が必要とされた

この研究は予備的研究(本調査に先立って行われる研究)ですので、明確な結論を出せるものではありません。性格によって痛みの表現には違いはありそうですが、どの程度異なるのかは明言できるものではないようです。

一方、この研究でもはっきりと見えてきたものがありました。それは「飼い主の評価はあまりあてにはならない」ということです。

研究者ら実験に先立ち、飼い主に犬の疼痛耐性を5ポイントスケールで予測するよう依頼をしていました。これを実験で得られた犬の痛みレベルと比べてみたところ、関連がないことがわかったのです。

研究者らはこの結果について「犬の痛みを評価する際に(飼い主による評価という)情報を使用することには限界がある」としています。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Lush, J., & Ijichi, C. (2018). A preliminary investigation into personality and pain in dogs. Journal of Veterinary Behavior, 24, 62-68.

Featured image creditMilante/ shutterstock

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