愛犬が怪我をしたり、病気にかかってしまったら・・・。
動物病院できちんと診察してもらい、適切な治療を受けることがベストの選択です。ただ、現代の薬や医療技術(手術など)だけではマネージメントすることが難しい病気もたくさんあります。
昨今、私たちの大切な愛犬がハッピーライフを送ることができるよう、世界中で様々なナチュラルセラピーが生まれ、発展してきました。オーストラリアでも、犬を対象としたナチュラルセラピーが実践されています。
ここでは、オーストラリアで人気のあるセラピーをご紹介させていただきます。まずは「ボーエンセラピー(Bowen Therapy)」に着目してみましょう!
ボーエンセラピーってなに?
ボーエンセラピーという言葉はあまり耳にしたことがないかもしれません。でも、オーストラリアでは、”Bowen Therapy”という看板をあちらこちらに見かけます。ほとんどは人のための治療施設なのですが、犬や馬専門のボーエンセラピストもたくさん活躍しているんですよ。
ボーエンセラピーとは、マッサージとストレッチを組み合わせた治療法です。マッサージでは筋肉のこりをほぐすだけではなく、筋膜の緊張を緩和することに注目しています。
筋膜には、身体の表層を覆う浅筋膜と骨格筋に関与した深筋膜とがあります。深筋膜は筋肉や筋肉群を包み、筋肉同士や他の組織との滑動を容易にする働きをしています。また、筋膜は筋肉だけではなく、神経や骨、血管なども包み込み、各組織が適切な部位に固定されるよう、全身の連結組織として大切な役割を担っています。
骨格は通常骨から形成されていますが、筋膜は線維性の骨格とも言われています。この筋膜に障害(緊張)が起こると、筋肉や神経だけでなく、全身の構造に影響が及びます。最近の研究では、筋膜にはたくさんのレセプター(※)が存在しており、体の中で最も大きな感覚組織であることが明らかにされています。
※化学物質や外部環境の変動などの信号を受け取り感知すること。, 細胞外のホルモンやその他の物質を刺激として選択的に受容するものの総称。多くの場合は、体外、細胞外からの刺激を受け取る分子をさす(日本語バイオポータルサイトJabion )。
ボーエンセラピーは、緊張した筋膜をほぐすことにより身体の構造を整え、筋膜内のレセプターを刺激することにより、障害を受けた身体機能を改善するための治療法です。
ボーエンセラピーの始まり
ボーエンセラピーは、オーストラリアビクトリア州のトム・ボーエン氏 (Thomas Ambrose Bowen, 1916〜1982)によって始められました。
スポーツマッサージ師として活躍していたボーエン氏は、仕事をする中で、筋肉や神経に関連する病気やその他の病気、そして痛みの根源は、筋肉と筋膜にあるのではないかと考えはじめます。仕事に励みつつ研究を重ね、生み出された治療技術がボーエンセラピーでした。
ボーエン氏は、とても多くの患者にボーエンセラピーを施術したそうです。1975年、政府が行った調査によると、ボーエン氏が1年間に施術した人は13,000人にのぼったそうです。そして、その80%の人に効果がみられたといいます。
初期のボーエンセラピーは、人間のみが施術対象になっていました。しかしその後、多くの人に伝えられたボーエンセラピーは、犬や馬にも適用できる施術方法が編み出されるなど、さまざまな発展を遂げました。
オーストラリアでは、50年以上も愛され続けているボーエンセラピー。各地で活躍するセラピストたちによって人間や犬そして馬にとって、ボーエンセラピーはとても身近な存在になっています。
ボーエンセラピストになるためには
人のボーエンセラピストになるためのコースには、サーティフィケートⅣとディプロマのコースがあり、オーストラリア各地のいろいろな機関で開催されています。一方、犬や馬のボーエンセラピストになるためのコースは人のボーエンセラピストコースよりも少ないのですが、やはりオーストラリア各地で開催されています[1]。
神経や筋膜といった用語のせいか、難しく受け取られた方も多いかもしれません。ですが、ほとんどのドッグ・ボーエンセラピストは一般の方が資格を取ってはじめられることが多いのですよ。もちろん、獣医師がセラピスト資格を取ることもありますが、新たに資格をとって開業することも不可能ではないのです。
どんな効果があるの?
慢性の関節炎や過去のトラウマ(骨折など)によって、身体の節々に痛みが生じている場合や、腰痛、頸部痛など局所的な痛みに対して効果があるといわれています。
施術では全身のマッサージとストレッチを行っていきます。マッサージは筋膜を治療するためのマッサージが含まれるため、通常のリラックスマッサージよりも強めです。
痛い箇所がある犬は、痛いっ!!と訴えることもあり、逃げようとすることもあるので、トリーツをあげながらだましだまし治療を行うセラピストもいます。1回の施術時間はセラピストにより異なりますが、20分から1時間かかることもあります。施術費用はセラピストにより異なりますが、中型犬の料金は通常A$40〜80(3720円〜7440円)です[2]。
[1] “Smart Bowen “や”Bowen Training Australia“には数日間の短期コースから2年間のディプロマコースがあります。また、他にも多くのプログラムが開催されています。
[2] 施術には、20分から1時間かかることもあります。また、施術費用はセラピストにより異なりますが、中型犬の料金は通常A$40~80(3700円~7500円)。これらの情報は、筆者が動物病院に勤務していた際の経験から、また、動物のナチュラルセラピストが集まる勉強会において収集した情報をもとに執筆いたしました。
このほか、当記事を執筆する際に参考にした文献およびWebサイトは、以下のとおりです。
[3] 新獣医学辞典編集委員会(2008)『新獣医学辞典』チクサン出版社
[4] Bowen Therapists Federation of Australia (BTFA)
[5] Smart Bowen
[6] Bowen Training Australia
Featured image by Adwo via shutterstock