オーストラリアンナチュラルセラピーでハッピーライフ〜あなどるなかれ、筋肉の凝り

健康管理
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早いもので、この連載も今回で第4回目。

今回は、またまた難しい名前の病気についてのお話です。名前だけ聞くと大仰な「筋筋膜性疼痛症候群」というこの病気、実はわりと身近なもののようですよ。

オーストラリア在住の獣医師、ルール久枝さんに詳しく聞いてみましょう♪

筋筋膜性疼痛症候群と獣医筋筋膜弛緩療法

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実際に米国の動物病院で行われている治療の様子
image from VOM Technology (William L. Inman, DVM, CVCP)

今回は、Myofascial Pain Syndrome(筋筋膜性疼痛症候群)と、それに対する治療法の1つであるVeterinary Myofascial Release(獣医筋筋膜弛緩療法)についてお話しさせていただきます。

まずはMyofascial Pain Syndrome:MPS(筋筋膜性疼痛症候群)について、簡単に説明させていただきます。この病名を聞くと、なんだかとても難しい病気で、うちのワンコには関係ないのではないか、と思う方も多いでしょう。でも実は、意外と多くのワンコが罹患しているかもしれないのです。

日本では、筋膜性疼痛症候群という名称のほうが広まっているようですが、この病気は筋膜だけではなく、筋肉にも関係しているため、実際には筋筋膜性疼痛症候群のほうが英語名に近いと思いますので、ここでは筋筋膜性疼痛症候群という名称を使用しています。はじめに、人の筋筋膜性疼痛症候群とはどのような病気なのか、簡単に説明いたします。 

・人の筋筋膜性疼痛症候群とは

久しぶりに筋肉を動かしたり、繰り返し筋肉に負荷をかけると筋肉痛が発生することがあります。この筋肉痛は特に何もしなくても数日間で自己回復することがほとんどです。

しかし、筋肉にかかる負荷が継続して繰り返されたり、血行の悪い状態が続いたりすると、筋肉の痛みは短期間で自己回復できなくなります。そして、その状態が慢性化し、悪化していくと強い痛みが発生し、時にはしびれを伴うこともあります。このような状態を筋筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome: MPS)と呼びます。

日本では、人の筋筋膜性疼痛症候群の認識はまだ低いそうです。レントゲンやMRI検査などで診断できなかった原因不明といわれていた痛みが、実は筋筋膜性疼痛症候群によるものであることがわかってきたといいます。この病気は400年も前から認識されていましたが、人医学で注目を浴び始めたのは80年ほど前からになるそうです。

動物でも、筋筋膜性疼痛症候群が発生することが認識され始めてきました。1991年に発表された獣医学論文では、筋筋膜性疼痛症候群は犬にもみられると報告されています。では、犬の筋筋膜性疼痛症候群とはどのような病気なのでしょうか?

・犬の筋筋膜性疼痛症候群とは

犬の筋筋膜性疼痛症候群は、慢性筋筋膜性疼痛とも呼ばれ、筋肉に複数のトリガーポイント(発痛点)がみられ、筋膜の緊張を伴う病気です。

トリガーポイントとは、筋肉の一部が硬結した部位で、圧すと痛みを生じます。トリガーポイントが存続すると、筋肉の動きが制限され、他の部位にも影響が及びます。また、筋膜は通常柔軟性のある組織ですが、緊張することにより、滑りが悪くなり、周囲の筋肉や関節の動きにまで影響を及ぼします。筋筋膜性疼痛症候群に罹患した犬の多くが跛行(※)を示します。人同様、レントゲンやCT検査などで跛行の原因が分からなかった犬が、筋筋膜性疼痛症候群に罹患していたということもあるといわれています。

犬の筋筋膜性疼痛症候群の診断は触診で行われます。オーストラリアでも犬の筋筋膜症候群についての認識はあまり高くないため、診断および治療ができる動物病院は限られています。

※ 跛行:歩様に異常をきたしている状態。歩く際もしくは走る際に、いずれかの足の着地が遅いもしくは速い状態。 

筋筋膜性疼痛症候群の治療

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image from Root River Veterinary Center P.A.

では、筋筋膜症候群に対しては、どのような治療をしていくのでしょうか?

オーストラリアのシドニーに所在するALL Natural Vet Careでは、犬の筋筋膜性疼痛症候群に対する治療としてマッサージやストレッチ、カイロプラクティック、鍼灸、経皮的通電神経刺激療法(TENS:Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation)、獣医筋筋膜弛緩療法(Veterinary Myofascial Release)が行われています。犬の状態によって、最適な治療法が選択されることになります。

たとえば痛みが強い場合や、治療が長期に亘る場合には、痛みの少ない治療法である獣医筋筋膜弛緩療法が選択されることがあります。獣医筋筋膜弛緩療法では特別な治療機(All Natural Vet Careでは、Vetrostimという治療機を使用)を使い、筋肉の緊張を和らげ、患部を正常な状態へと回復させていきます。マッサージや鍼灸で治療するには痛みが強すぎる場合などに選択されています。

※ 写真はVetrostimによる筋筋膜弛緩療法の治療風景。アメリカ、プレストンのルートリバー動物病院にて。同病院のDr. Linda Siffordによれば、筋筋膜弛緩療法はとても効果的な治療法だという。写真のワンコはSunny。


これまで診させていただいた、関節炎や靭帯炎などに罹患している犬の多くにトリガーポイントがみられています。ほとんどの犬たちは、多少の痛みがあっても、元気に走り回り、活動を控えるということはあまりないので、症状が悪化してから飼い主さんが気づくことが多いようです。

お家でワンちゃんにマッサージしてあげることがあれば、筋肉の凝りにちょっと気を付けてみてください。関節炎などを早期に発見する手助けになるかもしれません。


◼︎参考ウエブサイトおよび参考文献
[1] Healthy pets
[2] 筋膜性疼痛症候群研究会
[3] JANSSENS, L. A. (1991). Trigger points in 48 dogs with myofascial pain syndromes. Veterinary Surgery, 20(4), 274-278.
[4] All Natural Vet Care (シドニーのホリスティック動物病院)
[5] Catherine McGowan, Lesley Goff and Narelle Stubbs(2007)『Animal Physiotherapy: Assessment, Treatment and Rehabilitation of Animals』Blackwell publication

 
Featured image by ©Hisae Rule : トリガーポイントのマッサージによる治療風景です。このトリガーポイントは、前肢に関節炎などを発症している犬に多くみられます。

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