オーストラリアンナチュラルセラピーでハッピーライフ〜増殖療法

健康管理
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連載第5回目となる今回は「増殖療法(Prolotherapy)」のご紹介です。

増殖ってなに?いろいろ増えちゃうの?という沢山のはてな?を、オーストラリア在住の獣医師、ルール久枝さんにぶつけてみました!

運動大好きワンコを救う治療法のひとつ「増殖療法」

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© the WOOF (image by Alexander_P / Shuttterstock)

広い芝生の上やビーチを走り回ったり、ボールを追いかけたりしているときのワンコはとっても楽しそうですよね。そんな運動が大好きなワンコに起きてしまう悲劇は“怪我”。

運動大好き、特にジャンプ大好きのワンコによくみられる“怪我”は、後ろ足の膝にある前十字靭帯の損傷です。前十字靭帯は腿(大腿骨)と脛(脛骨)の間にあり、脛骨が内側にねじれないようにするための靭帯です。前十字靭帯を損傷してしまうと、通常は激しい痛みを伴います。また、ちょっと体重過多のワンコや、年齢を重ねたワンコでも、この前十字靭帯損傷は起こります。

小型犬では、同じく後ろ足の膝の関節が脱臼してしまう膝関節脱臼という病気がよくみられます。この病気は、先天性原因で発生する場合もありますし、後天性(ジャンプしたり、高いところから落ちたり、外傷を受けたりなど)原因により発症することもあります。後天性の場合には、要因発生後から後ろ足をついて歩くことができなくなったり、ピョンピョン飛び跳ねるように歩くようになったりします。先天性膝関節脱臼では、普通に歩いたり走ったりしていたワンコが突然、ピョンピョン飛び跳ねるような歩き方をしたと思ったら、またもとに戻ったりします。
 
このような怪我や病気に対しては、どのような治療法があるのでしょうか?怪我や病気の程度によっては、手術がベストかもしれませんが、手術よりもリスクの少ない治療法もあります。今回は、その治療法の一つ、増殖療法についてお話しさせていただきます。

増殖療法ってどんな治療法?

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オーストラリアで治療中のクッキー氏 © ルール久枝 / Shutterstock

腱や靭帯を怪我すると、怪我をした部位での修復作用が始まります。通常の治癒過程では、受傷後にまず患部の炎症が起こります。炎症が起こることにより、患部に運ばれてきた細胞などが、ダメージを受けた不要な細胞を除去してくれます。その後、新しい細胞、組織が再生され、怪我した部位は修復されていきます。しかし、腱や靭帯への血液供給は乏しく、なかなか治癒しないこともあります。

増殖療法とは、受傷した腱や靭帯に特別な溶液(通常はデキストロース)を注射して、回復力を高める治療法です。特別な溶液を患部に注射することにより、それに対する炎症反応が起き、新たな治癒過程が始まるのです。

増殖療法を行う際には、患部に複数回の注射をするため、その痛みを感じないよう通常は全身麻酔をかけます。治療時間は20~45分程度ですが、治療する関節の数などにより時間は異なります。怪我や病気の程度にもよりますが、たいていは1~4回(3~4週間ごと)の治療で良化します。治療後24~48時間に、若干の痛みや不快感を伴うことがあるため、鎮痛剤を短期間処方します。この治療法では、入院は必要ないため、その日のうちにお家に帰ることができます。治療後は、リハビリテーションを行い、徐々に運動ができるよう患部を強化していきます。

増殖療法のメリットとデメリット

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シドニーのAll Natural Vet Care © ルール久枝

増殖療法は、難しい治療法ではありませんが、治療のメリットとデメリットを理解したうえで、きちんとトレーニングを受けた獣医師に実施してもらうことをお勧めいたします。

◼︎増殖療法のメリット

1. 手術の回避

手術による身体へのストレスは大きく、合併症を伴う恐れがあります。また、手術後のリハビリテーションには長い時間を要し、手術をすることにより、後に関節炎を発症することもあります。他には、増殖療法の治療費は手術費よりも安価であることや、全身麻酔をかける時間が短いため、全身麻酔に伴うリスクが減少するなどの利点もあります。

2. 靭帯や腱の強化

増殖療法を行った靭帯や腱は、受傷する前よりも太く強くなるといわれています。犬によっては、増殖療法により、靭帯や腱が40%も強化されることがあるそうです。

◼︎増殖療法のデメリット

患部に再度炎症を起こさせる治療法のため、痛みを伴うことがあります。また、注射を複数回行うため、感染のリスクが高まりますが、手術に伴うリスクのほうが高いといえるでしょう。

オーストラリアでの増殖療法

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All Natural Vet Care院長、Dr. Barbara Fougere。世界的に有名なナチュラルセラピーを行っている獣医師であり、日本でも獣医師やペットオーナーを対象とした講演を行っている。 © ルール久枝

オーストラリアの動物病院では、前十字靭帯損傷や膝蓋骨脱臼を発症してしまった場合、手術を勧めることが多いようです(※)。オーストラリアの動物病院では、前十字靭帯や膝蓋骨亜脱臼の手術費用は約A$2000~A$4000(およそ18万円~36.5万円:西オーストラリア州の相場)になります。その後も、通院費用がかかります。手術のコストは高額であり、手術に伴うリスクもあるため、手術を回避する飼い主さんも少なくありません。

シドニーのAll Natural Vet Care(上から3、4枚目の写真)では、手術に代用する治療として犬の増殖療法を行っています。

※ 日本では、軽度の症例に対しては、まずは内科的治療という、炎症を抑える薬と運動制限などにより、経過を観察する方法を選択します。

最近では、増殖療法の他にも様々な治療法が実施されています。個々の症例に最適な治療法がみつかり、ワンコのクオリティオブライフが向上しますように。
 


◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] All Natural Vet Care | Prolotherapy –
[2] Caring Medical Regenerative Medicine Clinics | Prolotherapy
[3] Woodside Animal Hospital
[4] Integrative Veterinary Center | Veterinary Prolotherapy
[5] GetProlo.com | prolotherapy risks

トップの画像は、オーストラリアで暮らすバーニーズ・マウンテン・ドッグのクッキー氏とシッターのカレンさん。写真提供:ルール久枝

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