春の足音が聞こえてくると、ワクチン接種についての悩みが深くなる飼い主さんは多いかと思います。「どんなワクチンを、どのくらいの頻度で受けるのが良いのか」は、悩ましいところですよね。
今回はこの悩ましきワクチン接種についてお話します。近年改変されつつあるワクチン接種の”新常識”とは、どういったものでしょうか。
ワクチンに対する認識の変化
犬のワクチンプログラムといえば、成犬の場合は’年に1回受けるもの’というイメージをお持ちのことと思います。
狂犬病ワクチンについては、年1回の接種が狂犬病予防法という法律で定められているため、年1回の接種は飼い主の義務ということに変わりはありません。しかし、混合ワクチンに関しては、「必ずしも毎年の接種が必要というわけではない[1]」とする認識に変わりつつあるのです。
この変化の背景には、世界小動物獣医師会が『犬と猫のワクチネーションガイドライン』を発表したこと(2007年初版、日本語版は2010年)、そして各国の獣医師会などがこれに対応した方針などを整備しつつあることが挙げられます。日本獣医師会もWeb上で「接種方法については議論もありますが,世界小動物獣医師会のワクチネーションガイドラインの推奨する以下のような方法が現在最も安全で効果的だと考えられます[1]」と表明しています。
さて、ガイドラインに沿った方法とは、どんな内容なのでしょうか?
コアワクチンとノンコアワクチン
ガイドラインが推奨する方法とは、ざっくり言うと「コアワクチンとノンコアワクチンをその動物のリスクに合わせて組み合わせ、接種の間隔は個体の状態等を勘案して決める」というものです。
そう言われてもさっぱりわかりませんよね。まずはワクチンプログラムで重要となる用語、「コアワクチン」と「ノンコアワクチン」について記載しておきます。
- コアワクチン:世界で感染が認められている重篤な病気(ウイルス)に対するワクチンで、ガイドラインでは世界中の全ての子猫・子犬に接種すべきものとされているものです。犬ジステンパーウイルス、犬アデノウイルス、犬パルボウイルス2型が含まれます。また、狂犬病が流行している、もしくは流行の可能性がある国では、狂犬病もコアワクチンと考えられています。犬ジステンパーウイルス、犬アデノウイルス、犬パルボウイルス2型のワクチンは、免疫持続期間が長く(数年間)、最長では一生続くこともあります。狂犬病ワクチンは、免疫持続期間が1年のタイプと3年のタイプがあります。
- ノンコアワクチン:ノンコアワクチンは、地理的要因、 その地域の環境、またはライフスタイルによって、 特定の感染症のリスクが生じる動物にのみ必要なものと定義されているものです[2]。レプトスピラやパラインフルエンザなどは、これに該当します。ノンコアワクチンの免疫持続期間は種類や個体により異なりますが、1年以下といわれています。
ワクチン接種の頻度
さて、気になる接種の頻度ですが、ガイドラインではコアワクチンとノンコアワクチンについて異なる接種頻度が推奨されています。
コアワクチンである犬ジステンパーウイルス、犬アデノウイルス、犬パルボウイルス2型のワクチンは、8~9週齢で1回目、3~4週間後に2回目、14~16週齢以降に3回目を接種、さらに12ヶ月後に追加接種、その後は3年毎の接種が推奨されています(図参照)。
一方ノンコアワクチンは、各ワンコの生活環境や地域の流行などに応じて、必要な種類のワクチンを年に1回接種します。子犬のワクチンプログラムはコアワクチンと同様です。
注目なのは、コアワクチンについては成犬になってからは「1年後にブースター、その後は3年毎よりも頻回には接種しない」と推奨されていることです。年に1回の補強接種が一般的だった混合ワクチンですが、一括りに「年に1回必要」「複数年に1回で十分」とすることができないことには注意が必要です。
副作用は心配だけれどワクチン接種の期間が長くなるのは不安、という方は、ワンコがきちんと病気に対応できるだけの抗体を持っているか検査をしてみるとよいかもしれません。抗体価は血液検査で測定することが可能です。
その他、居住地域に流行している伝染病や生活スタイル(川や山、キャンプなどにワンコを連れていくことが多い場合など)によっては、必要なワクチンについて動物病院で相談してみるとよいでしょう。
次回は、接種後有害事象を含むワクチンに関するサブテーマをいくつかご紹介させていただきます。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] 日本獣医学会のQ&A- 犬猫のワクチンについて
[2] 世界小動物獣医師協会WSAVA、犬と猫のワクチネーションガイドライン
[3] MVM 2014年 150号ワクチネーションガイドライン概要と提言
[4] 統合獣医ケアジャーナル “Study using a half-dose canine parvovirus and distemper vaccine in small breed adult dogs.”
[5] Adverse events diagnosed within three days of vaccine administration in dogs.
[6] Vaccine side effects: Fact and fiction
Featured image credit philhearing / Flickr