皆さんいかがお過ごしですか? 読書犬・パグのぐりです。すっかり秋めいてきましたね。今回も、読書の秋!にぴったりな一冊をご紹介します。
『デューク』(文・江國香織 画・山本容子)です。これは、江國さんの『つめたいよるに』(理論社)に所収された「デューク」をもとに、山本さんが素敵な銅版画をつけて文庫サイズで出版された本です。ちょっとした大人の絵本、という装いですよ。
青年に救われる?
主人公は21歳の女性。実家暮らしでアルバイトをしているみたいです。彼女の飼っていた犬、デュークが死んでしまったところから物語はスタートします。
次の日も、私はアルバイトに行かなければならなかった。(中略)泣けて、泣けて、泣きながら駅まで歩き、泣きながら改札口で定期を見せて、泣きながらホームに立って、泣きながら電車に乗った
改札口で定期を見せたってことは、まだ自動改札になる前のことだから、わりと昔のお話のようです。それはいいとして。家族が亡くなったのだから、喪失感たるやいかほどのものか。僕も長い間一緒に暮らしていたウサギが亡くなって、本当に悲しかったもの。生き物はみんな家族だから、昨日までいた子がいなくなると、ぽっかり穴があいたような感じがするんだよね。
主人公の女性は泣いて泣いて、電車に乗るのですが、そこで10代後半の心優しい青年と出会います。そして、アルバイトを休んだ女性は、彼とお茶を飲み、誘われるままになぜかプールで泳ぎ(12月なのに!)、小さな美術館で絵を見て、男の子が行きたいというので落語に行くのです。なかなか面白いコースですね。
落語がキーワード
プール、美術館までは、それなりに楽しめていた女性は、落語あたりからまた悲しい気持ちがよみがえってきます。なぜなら、デュークも落語が好きだったから。こうした、ちょっとしたきっかけで、また思い出しては涙が出そうになるのです。
僕の飼い主さんのお友だちが飼っていた、さくらちゃんというビーグル犬が、この夏に亡くなったのですが、飼い主のMさんが「最初は信じられなくてね。外から帰ってくると、まずさくらをさがしちゃうのよ。部屋を掃除していて、さくらの毛をみつけたりすると、もう涙が止まらないの」って話していた。そうなんだろうなと思います。でもきっと、天国に行った仲間たちにとっては、そうやって飼い主さんが自分のことを忘れずにいてくれることが、いちばん幸せなんだろうなとも思います。
さて、物語はその後、思わぬ展開を見せて終わります。悲しいのですが、どこか温かい。色でたとえると、茶色に近いオレンジ色、といった印象でしょうか。
デュークはプーリー種という牧羊犬だそうで、調べてみたらずいぶん毛が長い子が多い種類みたい。生まれてすぐに女性の家にやってきたころは、廊下を走ってすべっては、四足がペタッと床にくっついてまるでモップのようだったって。確かにこの犬種の写真を見るとそうだろうなあと思います。そんな、細かい描写も読みどころの一つです。
挿絵が物語を充実させる
山本容子さんは有名な銅版画家。こうやって小説家とコラボレーションしていたことを、恥ずかしながら僕は今回初めて知りました。でも、すごくいいなあと思った。小説の面白いところって、読み手が物語の光景や登場人物を自分で想像して読んでいくところだと思います。だから、その意味で言うと、挿絵があると、物語の想像がある意味限定されてしまうので、ちょっとつまらないともとれる。特に僕の飼い主さんなんかは、小説が原作の映画を観るとだいたい「うーん。私のイメージとは違った」と言って、若干納得がいかなさそうなことがよくあるもの。やっぱり自分の頭の中で空想しながら読んでいるから、そのイメージが先行してしまうんでしょうね。
ですが、この作品は、文章がどちらかというと詩的な表現で、銅版画と絶妙にマッチしているからか、違和感がないのです。というよりも、文と版画がお互いに呼応し合いながら、より物語を充実させていると思いました。こういうケースもあると知って、新鮮だったなあ。
犬に関する本っていっぱいあるんですね。また見つけたらご紹介します!
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