雑誌『Shi-Ba』を通して見る 平成犬事情~『平成犬バカ編集部』

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皆さんこんにちは~。お元気ですか? WOOFOO天国出張所勤務、読書犬のパグのぐりです! 

僕は毎日元気いっぱい。食べすぎに注意しながらおいしいものを食べて、精力的に(?)読書を続けています。読みたい本が次から次へと出てくるから忙しいのなんのって。でも読みたいだけ読めるって幸せ。本があってよかったって、最近つくづく思います。

トップ+記事内写真に、なかよし兄妹柴の誇伯(KOHAKU)、情心(MONAKA)、彩羽(IROHA)に登場いただきました。撮影はWOOFOOインスタでお世話になっている@mizu816さんで〜す🎉

平成の犬と人とを振り返る

平成犬バカ編集部 (単行本)

先日、お気に入りの本屋に行きました。書棚を眺めながら歩いていると、1冊の本が目に入ったのね。その本は面出し(表紙が見えるように並べられていること)されていて、表紙にかわいい柴犬の絵が。これはと思って手に取り、最初の数ページをめくってみると、あら面白そう。ということで購入しました。

この、『平成犬バカ編集部』(片野ゆか著 集英社 2018)は、日本初の日本犬専門雑誌『Shi-Ba』(辰巳出版)編集部を舞台に、その編集員(ほぼ全員犬バカ)とパートナーのワンコたちを追ったノンフィクション。そして、その編集部だけでなく、タイトルに「平成」とあるように、平成が犬と人にとってどのような時代であったのかを振り返れる作りになっています。なんと贅沢な内容。

面白かった。一気に読んでしまいました。物語は、一人の男性編集者、井上が、起死回生をかけてある一冊の雑誌の企画を上司たちにプレゼンするシーンから始まります。その雑誌こそが、『Shi-Ba』。そもそもなぜ井上はそんな雑誌を作ろうと思ったのでしょう? 

最初はパチンコ雑誌から

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我ら柴犬。お外遊びが大好きで、整列だってお手のもの。 image by @mizu816

井上が出版社に就職して、最初に配属されたのはパチンコ専門雑誌編集部でした。そもそも辰巳出版はそうした娯楽系の雑誌に強い出版社で、パチンコ雑誌編集部は社の中でも花形の部署。ですが、ギャンブルに全く興味のなかった井上は、なかなか仕事に熱中できず、エンジンがかかりませんでした。

それでも数年してから、読者が求めているものを作る、という面白さに目覚め、だんだんと仕事に没頭するようになり、編集長まで上り詰めます。しかしそこで雲行きが怪しくなり…。結果的に左遷人事に巻き込まれ、遊軍扱いに。まだ若い自分が、今後どうしたらいいのかをもんもんと考えているときに、浮かんだアイデア。それは自身の飼っている柴犬の「福太郎」を雑誌にできないか、というものでした。

井上は妻と二人、新築一戸建てに引っ越した後、柴犬を飼い始めていました。「福太郎」と名付けた子犬はやんちゃの限りを尽くし、新築の家はあっという間に中古物件に。でも井上は、福ちゃんとの生活が楽しすぎて、福ちゃんは世界一かわいいと豪語する、完全なる立派な「犬バカ」となっていました。その想いを原動力に、新雑誌立ち上げのプレゼンをし、結果的に上司からGOサインをもらったのです。そして始まったのが『Shi-Ba』でした。

時は平成13年。日本犬は、昭和の時代にはもれなく庭で番犬として飼われ、室内飼いはめずらしかった。やっとゴールデンレトリーバーなどの大型洋犬が室内で飼われるようになってはいたものの、日本犬の室内飼いはそれほど認知されていませんでした。そして、日本犬に洋服を着せる、ということもスタンダードではなかった時代。編集長以下、筋金入りの犬バカが揃った編集部では、次々とそうした既成概念を打ち砕く斬新な企画を立ち上げ、雑誌を作っていきます。

この本はその過程を追ったノンフィクション。「ええ!そんな個人的な理由で、雑誌の内容ってできちゃうの?!」と思う方もいるかもしれませんが、雑誌は、もちろん読者が楽しんでくれるのが第一条件ではあるけれど、それを実現するためには、作り手である編集者がそれを楽しんでいるかどうか、がすっごく大事なのですよ(とは、雑誌編集に長らく携わっていた、地上での僕の飼い主・Nさん談)。

『Shi-Ba』創刊号の表紙を飾ったのは、唐松模様の風呂敷を首に巻いた福太郎でした。その後も、編集部員の飼い犬(ほぼ柴犬。その他日本犬)はモデル犬として紙面に登場。そして編集長以下、部員も様々な役柄に扮してグラビアページに登場しました。なぜって?一番は予算がないから。でも、飼い犬が世界一かわいいと思っている編集部員の手にかかったら、そりゃあ自分の犬を紙面に登場させるよね(笑)。タイトル通り、「犬バカ編集部」なのです。

「犬現代史を書きたい」

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わたし、柴犬。ラブリーなスタイルも難なくこなすの。 image by @mizu816

さて、この本は『Shi-Ba』の編集について扱いつつ、同時代である平成に犬たちがどんな変化を成し遂げたかも追っています。それは、先に言ったような、外飼いか、室内飼いか、など、ライフスタイルの変化から、「飼い犬」から「家族」へという、人間側の意識変化、そして、はやりの犬種などから、ペットショップや保護犬の問題まで。犬にまつわるトピックがうまく挟み込まれて、かなり読み応えのある内容となっています。

なぜこれだけの内容にできたのか。それは著者の片野さん自身も犬を飼っている「犬バカ」であり、作家として犬に関係する本を数多く上梓してきたことが関係しています。ちなみに、片野さんの作品はいろいろなところで読むことができ、例えばNさんの子どもたちは現在、朝日小学生新聞で毎朝、片野さんの「竜之介先生、走る」を愛読中です。

こうした執筆活動をしてきた片野さんは常々、犬と人との関係が劇的に変化した「平成」という時代を「犬現代史」として本にまとめたい、と思っていたそうです。それを今回、『Shi-Ba』という雑誌を軸に実現させたのがこの本なのでした。2019年1月12日朝日新聞朝刊の読書欄「著者に会いたい」で片野さん自身がそう語っています。ちなみにこの朝日新聞の記事を書いた太田匡彦記者は、やはり平成の時代に雑誌『AERA』などで、保護犬の問題をはじめ、人間の勝手な行動が動物たちの命を軽んじている実態に鋭く切り込み多くのルポを書いてきた記者さんで、この本にも登場します。

この本は、平成を犬で振り返り、福ちゃんの一生をたどり、そして『Shi-Ba』の創刊から100号までを追った、渾身のルポルタージュ。我が家の犬歴史を振り返りつつ読んでみても面白いです。そして、犬好きだけでなく、平成が終わろうとしている今の時代に、多くの方に読んでいただきたい力作です。


平成犬バカ編集部 (単行本)
片野 ゆか
集英社
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Featured image credit@mizu816 / instagram

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