皆さんこんにちは~。東京在住の読書犬・パグのぐりです。
今日は虹を見ました! それも二重の虹。何かいい事ありそう。日中はとてもいい天気で暑すぎるくらいでしたが、夕方4時ころから雲行きが怪しくなってきて、その後黒い雲が空を覆い、大粒の雨がザーッときました。
夕立、ですね。
しばらく降り続いて、一瞬太陽が差し込んだその時に、虹。雨の後は、しばらく雷がゴロゴロしていたけれど、それも次第におさまり、6時過ぎにはもう道が乾き始めたの。また蒸し暑くなるのかなと構えていたら、あれ? なんだか涼しい。夕立後の涼しさって風流で好きです。
独特の“江國ワールド”
さて、本ですね。今回も見つけちゃいましたよ。素敵な小説を!ご紹介するのは『犬とハモニカ』(江國香織著 新潮社 2012年)です。江國さんの作品は以前もご紹介しましたが、なんというか、独特の空気感があるなと思います。今回もそうでした。
舞台は日本の空港。海外からの帰国者や旅行者を乗せた飛行機がもうすぐ着陸する、というところから物語がスタートします。最初に登場するのは、社会人ボランティアとして日本の“トホク地方のヤマガタ”(p12)を目指して来日するアリルド。しょっぱなに彼の寝相のことが出てくるんだけど、この名前と寝相の描写で、てっきりこのアリルドというのが犬なのかと思っちゃった僕。違いました。人間でした…。
それからひと組の家族。妻は学生時代に留学していたシアトルに娘を連れて旅行へ。その二人が帰国するので車で空港に向かっているのが夫です。理由がわからない離婚を妻から切り出されている彼は、「?」を胸に、空港へ車を走らせます。
初老の女性は、ロンドンへ娘一家に会いに行った帰りの飛行機です。英国人と結婚した娘は、双子の女の子の母親に。5歳の孫娘たち、優しい娘と婿、楽しい旅を終えて高齢者向けのマンションへ帰るのです。
このように、それぞれにストーリーを抱えた登場人物たちが交錯しながら、機内や空港内での様子が描写されていきます。犬の登場はすごく少ないのだけれど、でも確実にあるので楽しみに読んでみてください。
シアトルとNさん
さて、この小説、僕だけでなく、飼い主のNさんが食いつきました。何故って? 中に出てきた国が、Nさんにとっても大切な国だから。シアトルは、Nさんが僕を飼うきっかけを得た街とも言えるんだ。
今から約10年前、結婚後も雑誌記者として働いていたNさんは、あるヴァイオリニストのYさんを取材します。彼女は長年シアトル在住で、数年前からがんを発症し、闘病していました。そうした中、日本に一時帰国し、念願のリサイタルを開くということで、ある方から紹介されて取材することになったのです。
Yさんはがんに罹ったことにびっくりはしていたけれど、前向きに生きている素敵な女性でした。年齢は60歳近かったでしょうか。Nさんは、この魅力的なYさんから短時間でたくさんのお話を聞いて記事を書いたのです。それがご縁で、その後もEメールをやりとりすることがありました。
さて、当時Nさんは不育症という病気で、数度の流産を繰り返していました。妊娠してもなかなか出産に至らないこの病気に、がっくりきていたNさん。Yさんの取材の数か月後にも同じ経験をし、ついついメールにそのことを書いてしまったのです。するとYさんから「シアトルにこない?」という返信が。Nさんは驚いたけれど、行ってみたいと、夏休みをとって一人シアトルに飛びました。海沿いのこの町で、マリナーズのイチロー選手の試合を見て、室内楽の演奏会に行って、国立公園でのキャンプを楽しみました。
それから、Yさんの愛犬、パグのフィオッコに会えました。フィオッコはYさんの言うことをきちんと理解していて、初めて会ったNさんにも実にフレンドリーに接してくれて、もともと犬好きではあったNさんがすぐに虜になっちゃったんだって。このフィオッコとの出会いがきっかけで、Nさんは「犬を飼うなら、ぜひパグを」と思い、帰国後しばらくたってから、僕を飼いはじめたのです。
シアトルでの楽しい1週間を終え、空港でYさんとのお別れの時が来たとき、なぜかNさんは涙が止まらなくなった。泣いちゃダメって思えば思うほど、泣いてしまったそう。Yさんと一度はさよならをしたんだけれど、その後に、Yさんが駆け寄ってきてくれた。その時は、ちゃんと、笑顔で、さようならが言えたって。Yさんは、涙のお別れにしたくないって思ったのかもしれないね。
旅の始まり、旅の終わり
Yさんはその後、がんで亡くなります。Nさんは2人の子どもの母親になった時、それを一番に伝えたかったのはYさんだったって。Yさんがシアトルに呼んでくれたから、そこでフィオッコをはじめ、たくさんの素敵な出会いがあったから、元気になってまた日本での暮らしを頑張れたって。
Nさんのシアトルへの旅は特別なものだったけれど、この小説の登場人物一人ひとりにもそういう旅物語があるから、読み応えがあるのだと思います。皆さんにも特別な旅の思い出、ありますか? そんなことを思い出しながら読んでみてくださいね。
Featured image credit Ana Fuentes / Flickr
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