皆さんこんにちは~。猛暑だったこの夏。各地で自然災害が相次ぎました。9月になってからは、台風21号、そして北海道での地震。被災された方々に、早く日常が戻りますように。そして、被災地のワン仲間たちも、早く心穏やかに過ごせる日が来ますようにと、祈っています。
ウルフドッグが登場する小説
さて、今回は犬が登場する小説をご紹介しますね。『凍える牙』(乃南アサ著 新潮文庫 1996年)は、女性刑事が主人公の物語です。登場するのはウルフドッグ。そう、オオカミと犬を掛け合わせて生まれてきた犬です。ちょっとめずらしいよね。この犬がどんな風にストーリーに絡んでくるかというと…
物語は幕開けから波乱に満ちています。とある深夜のファミリーレストラン。来店した男が自席でいきなり発火するのです。燃え上がる男。逃げ惑う他の客たち。男は焼死し、警察による捜査が始まります。その捜査員の一人が主人公・警視庁機動捜査隊の音道貴子でした。
音道は男性同僚である滝沢とペアになって、捜査を開始します。
焼死した男性の身元調査は難航します。そして発火原因もなかなかわかりません。しかしその中で一つ、不審な点が浮かび上がりました。男性の足に、動物にかまれた跡があったのです。男はなぜ動物にかまれたのか?そしてなぜ、燃えたのか?事件は謎を引きずったまま、物語は進みます。
度重なる咬殺事件
そして、この火災事件後、別に動物による咬殺事件が発生。解決できない事件が重なっていきます。そうした中、音道・滝沢ペアは、事件を起こした獣が、ウルフドッグではないか、という予測のもと、ウルフドッグの販売業者に聞き取り捜査を開始。ここでこの種類の犬の飼育者リストをもらい、事件は解決するかに思われたのですが、そうは問屋が卸しません。
しかし、捜査の中で、咬殺事件の被害者たちがある点でつながることがわかってきます。そこからほんの少しずつ、事件の絡まったひもが解かれていくのです。
この本の中の一番の見もの(?)だと僕が思ったのは、音道が白バイで獣を追うシーン。そう、音道刑事は以前、白バイ隊員としても活動していたのです。
さて、小説の後半は、徐々に謎が解決されていくと同時に、ずっとその正体を現さなかった“獣”の実像が見え始めます。いったい誰が、何の目的で飼っている動物だったのか? そこには「家族」というキーワードが見え隠れしています。
人間の「怖さ」を書かせたら天下一品
警察という職場の面白さ、不思議さ、理不尽さ、その他もろもろが見えてくる内容です。そして犬の賢さと、賢すぎるが故の(つまり、飼い主の命令には絶対的に従う、ということ)、その行動の理不尽さも描かれているように思いました。
人間模様も読みどころの一つです。音道とペアとなった滝沢という刑事は、ベテランの中年男性。一方音道は30代の女性刑事。男社会に慣れていた滝沢にとって、音道はペアになるにはちょっと…という存在で、このコンビ、最初はなかなかうまくいきません。どちらもが互いの腹の探り合いをしているようで、ある意味気を使いすぎているというか…。
僕たち動物の社会では、雄と雌の役割分担はかなり明確な種が多いと思うけれど、人間社会の性的役割分担というのは一筋縄ではいかないんだね。ヒトも動物だけれども、やっぱり社会化されている分、他の動物たちとは異なるのかな。女性刑事という登場人物を通して、著者はそういう社会の一面を描き切っているなと思いました。
僕、著者の乃南さんの作品を読むのはこれが初めてだったのですが、地上での飼い主Nさんの担当の美容師さんも乃南作品のファンらしくて。「これも面白いから読んでみて」と借りてきたのが『幸せになりたい』(乃南アサ 祥伝社文庫 1999年)。乃南作品をたくさん読んだ美容師さんがおすすめの作品というだけあって、読み応えある短編集でした。というか、人間って、コワーイ!と思った(笑)。こうしたどちらかというと「え?!そんなことになっちゃうの?」という怖い作品を書く乃南さん。『凍える牙』はその中ではわりと正統派サスペンスなのかもしれないです。ぜひぜひ読んでみてください。
Featured image creditkatelynn19/ Flickr