こんにちは! 東京都下に住む読書犬・ぐりです。だんだん寒くなってきたけれど、みなさんお元気にお過ごしでしょうか。
もう少し寒くなったら、こたつに入って読書なんていいですよね~。人間はそこにミカンも揃えば完璧かな?
沢山の動物を描いた作家、椋鳩十
さて皆さん、椋鳩十(むく はとじゅう)という作家さんをご存知ですか? 知らないという方も『大造じいさんとがん』の作者と聞けば「ああ!」と思われるのではないでしょうか。そう、あの教科書にも載っていたお話の作者です。
椋さんは動物が登場する物語をたくさん書きました。一つひとつの物語は子どもにも読めるくらいの長さなのですが、内容は子どもだけではなく、大人にも十分感動を与えてくれます。以前、児童文学研究家の清水真砂子さん(『ゲド戦記』の翻訳家としても有名)が、子どもは大人よりもよほど厳しい読者だから、児童文学には優れた作品が多いということを話していました。「へー」って思ったんだけど、椋さんの作品を読むと確かにそうだなあって思います。
と、前置きが長くなっちゃったけど、今回ご紹介するのは、『椋鳩十の愛犬物語』(椋鳩十著 中釜浩一郎絵 理論社 1995年)。椋さんの犬に関する作品を集めた本です。ごく一般の家庭で飼われている犬、猟犬として活躍する犬、戦争に巻き込まれる犬…いろんな状況におかれた犬が主役のお話です。
人間の都合に巻き込まれることも
どの物語も魅力的なのですが、僕が特に好きになったのが「クロのひみつ」。ある男の子が飼っていた犬・クロ。男の子とはお別れしてしまうんだけど、その後、迷い犬になったクロはある学校で飼われることになるの。生徒や先生、職員たちとの交流がほのぼのと描かれます。そして、ラストシーンが印象的です。犬って、最初に飼ってくれた飼い主さんに一番愛情を感じるって言われるけれど、クロもそう。男の子への想いが見事に描かれます。犬は人の言葉を発することはできないけれど、その行動にいろいろな想いが込められているのだなということが、よくわかるシーンになっています。
この物語読みながら「あれ?この話、知ってるなあ…」と思った僕。実はこの物語は長野県のある高校での出来事を元に書かれているのですが、この実話を元にした映画があるのです。それが「さよなら、クロ」(松岡錠司監督、妻夫木聡主演、シネカノン 2003年)です。僕、たまたまこの映画のDVDを少し前に見たことがあったの。物語として書く人がいたり、映画にする人がいたり、この実話は昭和30年代のことなんだけれど、それほど多くの人にインパクトを与えたってことなんだね。映画もあわせてみてみると面白いと思います。でも、できれば先に椋さんの作品を読んで、いろいろ想像してみてからにしてくださいね。
もう一つ、いろんなことを考えさせられるのが「熊野犬」というお話。ある家庭に送られてきた熊野犬はマヤと名付けられ、皆にかわいがられます。ですが時は第二次世界大戦の頃。人間が食べていくのも大変な時に、犬を飼うなんて、ということで、軍用犬以外は悲しい運命を背負わされる。それでもマヤは、飼い主の守りによってかなり長い間家庭で飼われていたのですが、とうとう時局には逆らえなくなるのです。人と、とても近い関係の僕たち犬が、幸せに暮らしていけるということは、人間が平和な世界をつくっているからこそなんだなーって。いろいろ考えさせられたよ。
詳細な取材が元になって
「遠山犬トラ」という猟犬についての物語は、ち密な描写が圧巻。たとえば、狩人と犬との関係を椋さんは次のように書いています。
狩人の、目の動き、ちょっとした動作、身のこなしで、狩人の気持ちを、読みとって、かゆいところに、手のとどくように、狩人の思いのままに、犬が動くということです。犬が狩人を愛して、愛する者のためには、命がけで、えものに、立ち向かうということです。(中略)狩人と犬の心が、ぴったりと、とけあうためには、犬を、かわいがることです。(p.142-143)
どうしてこんなに詳しく書けるのかなと思ったら、解説の中に、椋さんが実際の猟師さんに綿密な取材をしていて、その取材ノートにはびっしりと情報が書かれていたということが明かされていました。そうした中から生まれた物語だから、やさしい言葉で、決して長くない文章で書かれていても、なにか読み手に訴えてくるものが大きいのだなと思いました。
子ども向けの本だけど、大人にも十分楽しめるし、考えさせられるテーマがたくさん含まれています。ぜひぜひ、読んでみてくださいね。
理論社
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