ペットの肥満に対する関心が高まっているように感じます。
わたしの住むイギリスでもペットの肥満に対する関心は高く、医師や動物愛護団体はこれを大きな問題として取り上げるようになってきています。
そんな中、英国の獣医師で構成する慈善団体PDSAは今年3月、動物福祉に関する調査報告(2014 PDSA Animal Welfare (PAW) report)を発表しました。
獣医師が最も注目しているのは「伴侶動物の肥満」
このレポートには、英国で活動する獣医師がこの2年間でペットの肥満レベルが上がったと見ていること、そして次の5年間で肥満ペットの数が健康体重を維持するペットの数より多くなると予測しいることが報告されています。
給餌については、食事やオヤツの与えすぎはもちろん、飼い主が給餌量の判断をするのに常識や過去の経験に頼りすぎであることを問題点として指摘しています。そして食事量は、品種によっても個体のライフステージによっても異なるとして、専門家に相談しながら決めることを推奨しています。
興味深いと感じたのは、19ページに掲載されている”Views on Pet Obesity”のところ。「過剰に太っているペットは専門家のアドバイスを聞かない飼い主と引き離すべきか」という質問に対し、専門家では73%が、飼い主では60%がYesと答えているのです。「飼い主はペットの食事に責任がある」に95%がYesと答えていることからみても、英国の飼い主さんはペットの養育を真剣に考えているんだなぁと実感しました(その割に、肥満が多いですが)。
PAWレポートは英語ですが、画像やグラフが多様されていて、楽しく見る・読むことができるものです。ぜひご一読ください。
肥満は生活の質を損ない、寿命を短くする
この報告を受けて、ガーディアン紙(the guardian)はPDSAに属する医師へのインタビュー記事を掲載しました[1]。
As in humans, pet obesity can reduce life expectancy. by Sean Wensly
—肥満はペットの寿命を短くする。人間の肥満と同じである
PDSAに所属するウェンズリー医師(Sean Wensley)は、「肥満は生活の質を損なう」として警鐘を鳴らしています。曰く、「肥満による糖尿病、関節炎、心臓病および癌などの疾病が増えている」とのことで、人間が健康問題を抱えるのと同様に、ペットたちも肥満によってなんらかの問題を抱えることになるようです。
医師によれば、肥満の原因は、食事の与えすぎとオヤツの与えすぎにあるといいます。その一方で、それに見合う運動はなされていないということで(イギリス全国平均の一日の散歩量は1時間未満で、25万頭は全く散歩をしていない)、ペットたちが太ってしまうのも致し方ないのかと感じました。
それでも、上述のとおり、英国の飼い主さんたちは肥満に無関心というわけではないのが救いです。医師も、「飼い主たちは、ただペットが肥満であることに気がついていないのだ」と述べています。確かに、ペットが肥満であると判断するのは、なかなか難しいですよね。どうやって肥満か否かを判断するのでしょうか。
肥満、それとも理想的?実際に確かめてみよう
肥満の判断として、臨床的にはボディコンディションスコア(Body condition score, BCS)や相対体重(Relative body weight, RBW)等の主観的評価が多用されています[2]。
何やら難しいカンジの言葉が出てきましたが、BCSは触って確かめること、RBWは標準体重との比較とざっくり理解すればOKでしょう。
BCSは視診や触診によって肥満度を主観的にランク分けする方法で、5段階評価法と9段階評価法があります。いずれも数字が大きいほど肥満度が高く、小さいほど痩せている状態を表しています[2]。
・英ペットフード工業会の”Size-O-Meter”をご紹介
ここでは、英国で比較的メジャーな”Size-O-Meter“をご紹介します。ペットフード工業会(Pet Food Manufacturers’ association: pfma)によるもので、痩せすぎから肥満までを5段階で判定します。これによると、理想体重を10-15%超えると太り過ぎ(Overweight)、15%を超えると肥満(Obese)です。
ところで曲者はこの「理想体重」なるもの。どの数字を「理想」とするのかが、非常に難しいところなのです。通常、理想体重/適正体重/標準体重とえば、ケネルクラブが発表しているものを指しますが、必ずしもわが子に適合するとも限りません。たとえば、我が家には2匹のラブラドール・レトリーバーがいますが、女の子は典型的なフィールドタイプでジャパンケンネルクラブの平均体高・平均体重にすっぽりはまります。しかし、雄ラブの平均体高は56−57cmということですが、うちの子は60cmをゆうに越していて、「平均体重25kgから34kg」なんてありえません。
これは当たり前といえばあたりまえのことかもしれません。ケネルクラブが標準(スタンダード)を定めた当初の目的は繁殖指針を明らかにすることであって、肥満判定のためではありません[3]。であれば、思い切ってオリジナルの理想体重を設定したほうが良いのではないでしょうか。かかりつけ医と相談して決めるのもよいですし、健康を維持しているコであれば成長期を終えた頃の体重を標準とするのも良いかと思います。
・実際に見て、触って、判定してみましょう
体重だけに頼らずに、目で見て、触って、肥満ではないかを確認してみましょう。以下は、”Size-O-Meter“の日本語訳です。
- 痩せすぎ:適正体重より20%下回る|肋骨、背骨、腰骨がはっきり見える|極めて少ない筋肉量|触ると脂肪がないことがわかる
- 痩せぎみ:適正体重より10-20%下回る|肋骨、背骨、腰骨が見える|腰や腹部が顕著に締まっている|触ると極少ない脂肪がわかる
- 理想的:肋骨、背骨、腰骨は触るとわかる|腰や腹部が引き締まっている|触ると少しの脂肪がわかる
- 太り過ぎ:適正体重より10-15%上回る|肋骨、背骨、腰骨が殆どわからない|腰のくびれがわからない|腹部およびお尻を触ると脂肪層がある
- 太り過ぎ:適正体重から15%を超える|肋骨、背骨、腰骨が全くわからない|腰のくびれがなく、下腹部が垂れ下がっている|背中およびお尻にたっぷりとした脂肪層がある
ご飯を幸せそうに食べてくれる姿をみるのは嬉しいものですが、肥満によって病気や怪我で苦しむおそれがあることを考えると、甘い顔ばかりしてはいられません。できるだけスリムな体を維持させて、長生きしていただきましょう!
[1] Pet obesity a growing problem in the UK | UK news | The Guardian
[2] 石岡克己. (2012). 伴侶動物の肥満とその弊害. ペット栄養学会誌, 15(1), 17-23
[3] 一般社団法人 ジャパンケネルクラブ(JKC) – 世界の犬
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