愛犬が、あなたの怒った顔より笑顔に注意を向けるなら、そのコはきっと幸せです。
最近発表された研究によれば、オキシトシンを投与された犬は、人間の笑顔により長く注意を向けるのだそうです。
オキシトシンが犬の感情に影響する
オキシトシンは、9つのアミノ酸が繋がったペプチドホルモン。母体の生理機能に影響を及ぼすほか、不安行動や社会性行動に関与しストレス緩和作用があることから、”幸せホルモン’や”愛情ホルモン”などと呼ばれることもあるのです。
人の場合オキシトシンは、スキンシップやアイコンタクト、おしゃべりなどで分泌されます。イヌの場合は、人とのやり取り(アイコンタクト)の中で分泌されることがわかっています[2]。今回発表された研究は、オキシトシンが犬の注視行動にどのような影響を与えるかを探求する目的で行われました。
★ ご参考:『見つめあいで促進、人とイヌとの絆〜オキシトシンの関与を確認(麻布大学など)』
実験を行ったのはヘルシンキ大学の研究者ら。43匹の実験協力犬に人間の顔写真(怒った人、笑顔の人)を見せて、その反応を記録するというものです。テストは2回行われ、オキシトシンを鼻腔投与された状態の1回目と、オキシトシンなしの2回目とが比較されました。
各テストでは非接触式眼球追跡システムを使って、犬の視線の向きや瞳孔の大きさが測定されました。
結果、オキシトシンを投与された犬は、笑顔の人に長く視線を向け続けることがわかりました。研究者らは、オキシトシン投与により警戒が抑制され、人間の笑顔をより魅力的に感じるようになるとして、「オキシトシンは犬の基本的な感情処理を調整する可能性があるという(先行研究が示唆していた)仮説を支持する」と述べています。
”愛情ホルモン”により人の笑顔が魅力的に見える
本研究の新しいチャレンジは、犬の感情を視線や眼球の測定により推し量ろうとしたところにあります。目の動きには感情が現れるとはよく言われることですが、無意識な視線の動きや瞳孔の大きさなどの意図せざる眼球運動には、認知のプロセスが深く関わっていると考えられています。不安やストレスはアドレナリンを通して様々な脳部位に作用して、交感神経系や副交感神経系を介して瞳孔にも作用するというのです[3]。
瞳孔測定を使用した感情状態の評価は、人間やエンジン類に対して行われていましたが、犬に対して実施されたのは今回が初めてだそうです。
瞳孔の大きさは、オキシトシンを投与したときと投与していない時で、全く逆の反応を示しました。オキシトシンの投与がない時は、犬の瞳孔は怒った顔に強く反応し(瞳孔が大きくなった)、オキシトシンを投与した時は怒った顔への反応が薄くなったばかりか、笑顔への反応が強くなりました。
このことから研究者らは、オキシトシンには脅威への警戒を減らす効果と、友好的な人間の顔の魅力を高める効果があると見ています。どちらの効果も、人と犬の良好なコミュニケーションのためには大切なもの。愛犬には、”愛情ホルモン”をたっぷり分泌してもらって、私たちの笑顔を好きになってもらいたいものです。
愛犬が「飼い主さんの笑顔って素敵!」とウルウルした目で見つめてくるなら、あなたとかわい子ちゃんとの関係は良好といえそうですよね。逆に、怒った顔をジーッと見つめられるのなら、愛犬との穏やかなふれあい時間を増やした方が良いのかもしれません。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Somppi, S., Törnqvist, H., Topál, J., Koskela, A., Hänninen, L., Krause, C. M., & Vainio, O. (2017). Nasal oxytocin treatment biases dogs’ visual attention and emotional response toward positive human facial expressions. Frontiers in Psychology, 8, 1854.
[2] 菊水健史. (2017). オキシトシンによるヒトとイヌの関係性. 動物心理学研究, 19-27.
[3] 眼から読み取る心の動き ――Heart-Touching-AIのキー技術 – NTTグループ
Featured image credit Jonathan Daniels / unsplash