ワンコの’性格’はどのように決まるのか?~犬の行動特性に与える遺伝的要因(1)

サイエンス・リサーチ
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誰にでもフレンドリーなワンコ、ちょっと怖がりなワンコ、知らない人には牙をむいてしまうワンコ、私たち同様ワンコの性格もさまざまですよね。

では、ワンコの性格はどのように形作られるのでしょうか?生まれ育った環境や毎日食べてるごはん、そして飼い主さんの性格も、性格形成に影響を与えるのでしょうか?

ワンコにも’性格’ってあるの?

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image by minsoo / Flickr

性格とは、「その人が生まれつきもっている感情や意志などの傾向(大辞林 第三版 | コトバンク)」を意味するため、犬にこの言葉を使うことは適切ではないという意見もあります。本記事では、こうした議論を承知した上で、犬の気質傾向や行動特性などをひっくるめた言葉として’性格’を使っていきます。

さて、これまでの研究でワンコの性格形成は、環境要因だけでなく、進化と家畜化による影響(背景となる遺伝的要因)も大きいことが明らかになっています。

ワンコの進化と家畜化の過程

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image by Phoebe_G / Flickr

イヌは、その起源が1 万 5 千年から 3 万 3 千年前と言われており、最も古くに家畜化された動物だと考えられています。。大昔からヒトに寄り添ってきた犬はその後組織的に繁殖されるようになり、今では、400種以上のワンコが世界中で私たちの家族・伴侶として過ごしています。

ワンコの祖先候補は様々ですが、オオカミである可能性が高いことが明らかになっています、オオカミからイヌへと家畜化されたプロセスについては、未だ明らかになっていませんが、攻撃的なオオカミを人と共存させるために人為的選択や改良が重ねられて、現代のワンコへと進化したと考えられています。

現代のワンコは欧米で改良されたヨーロッパ原産犬種が多く、アジア犬種よりもフレンドリーな傾向が強いようです。これは、ヨーロッパ原産犬種は、改良に改良を重ねて、人と共存しやすい犬種が作られてきたためと思われます。一方、アジア犬種は在来種が多く、ヨーロッパ犬種ほど選抜・改良されることはなかったため、祖先であるオオカミに近い性質が残り、そのような違いがみられるのではないかと考えられています。

これまでも遺伝子解析で、各犬種の特徴(形態や体格、被毛など)は遺伝子に関連することが明らかにされていましたが、最近の研究では各ワンコの’性格’にも遺伝子が関与していることがわかり始めています。

では、どんな遺伝子がワンコの性格形成に影響を及ぼしているのでしょうか?

どんな遺伝子が性格に関連するの?

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image by This Year’s Love / Flickr

遺伝子の歴史は浅く、まだまだ分からないことが多いのが現状です。しかし最近では、イヌの遺伝子解析が癌などのヒトでも見られる疾患の解明に繋がるといった視点から精力的に解析が行われており、非常に注目される研究分野になっています。

性格の背景となる脳の機能に関与する遺伝子群も重要なターゲットとして、解析が行われています。これまでに以下のような遺伝子群が、ワンコの性格に関与するものとして遺伝子確認されています。

・ドーパミン受容体D4(DRD4)遺伝子

ドーパミン受容体D4(DRD4)遺伝子は、特にワンコの攻撃性に関連すると考えられています。このDRD4が長いと、テリトリーを守ろうとする気質や他の犬への攻撃性が高くなり、新しい飼い主さんになついたり、家族と一緒に過ごしたがる傾向は低くなるようです。このDRD4は、猟犬や警護犬では長く、愛玩犬や牧羊犬では短い傾向にあることがわかっています。さらに、オオカミやアジア犬種はヨーロッパ犬種に比べてこの遺伝子は長いことが確認されています。

・セロトニントランスポーター遺伝子

セロトニントランスポーター遺伝子は、人や動物の“不安”遺伝子として知られています。このセロトニントランスポーター遺伝子は、ゴールデンレトリーバーを対象にした麻薬探知犬に関する研究で、他の犬への攻撃性や服従性に関連性のあることがわかりました。

・グルタミン酸トランスポーター遺伝子

グルタミン酸トランスポーターSLC1A2(solute carrier family 1 member 2)遺伝子は、活動性と神経伝達に関与することが明らかにされており、ラブラドール・レトリーバーを対象にした盲導犬の研究では、“しつけ”のしやすさを判断する際に役立つのではないかと考えられています。また、柴犬を対象とした他の研究では、柴犬の他人に対する攻撃性はこのSLC1A2遺伝子に関与しているのではないかと考えられています。

・アンドロゲン受容体遺伝子

ヒトでは、短いアンドロゲン遺伝子は、攻撃性に関連していることが明らかにされており、ワンコでもこの短いアンドロゲン遺伝子は攻撃性に関わっていると推測されています。

・カテコール-0-メチルトランスフェラーゼ遺伝子

盲導犬のラブラドール・レトリーバーを対象とした研究では、カテコール-0-メチルトランスフェラーゼ(COMT)遺伝子と活動性との関連性が確認されています。なお、このCOMT遺伝子は、人の総合失調症やうつ病などに関連することが知られています。

・セロトニン受容体1A、1B、2Aトランスポーター遺伝子

この遺伝子は、ゴールデンレトリーバーを対象とした研究で、攻撃性との関連性が報告されています。

・ドーパミン受容体D1、セロトニン受容体1D、2C、Solute carrier family 6 member 1遺伝子

この遺伝子は、アメリカンコッカ―スパニエルを対象とした研究で、攻撃性との関連性が認められています。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Persson, M. E., Wright, D., Roth, L. S., Batakis, P., & Jensen, P. (2016). Genomic regions associated with interspecies communication in dogs contain genes related to human social disorders. Scientific reports, 6.
[2] 村山美穂. (2012). イヌの性格を遺伝子から探る. 動物心理学研究, 62(1), 91-99.
[3] Lesch, K. P., Bengel, D., Heils, A., & Sabol, S. Z. (1996). Association of anxiety-related traits with a polymorphism in the serotonin transporter gene regulatory region. Science, 274(5292), 1527.
[4] 東京大学獣医動物行動学研究室(森裕司ら)、柴犬の気質(行動傾向)に関わる遺伝子多型の探索
[5] 橋本 亮太 , 安田 由華, 山森 英長、ゲノムによる霊長類における脳機能の多様性の解明、京都大学霊長類研究所
[6] Zapata, I., Serpell, J. A., & Alvarez, C. E. (2016). Genetic mapping of canine fear and aggression. BMC genomics, 17(1), 572.
[7] 南山堂医学大辞典(2015), 南山堂

Featured image credit Ekaterina Brusnika / Shutterstock

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オーストラリアでは、ミックス種ワンコをたくさんみかけます(多くのミックス種ワンコは、両親が異なる純血種です)。以前、代々ミックス種のワンコにDNA検査を受けさせた飼い主さんがいました。どんな血統が入っているのかを調べるために行ったそうで、結果、見た目からは想像できない犬種が入っていたことがあり、とても驚いたことを記憶しています。

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