遺伝ってなあに?〜生まれながらの個性をつくる生命の現象

犬のカラダ
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「頬にできるえくぼはお母さんゆずりね」とか「運動神経の良さはお父さん似だね」などという会話、みなさんこれまでに一度はしたことがあるのではないでしょうか。また、「血の近い人との結婚はよくないよ」などということははるか昔からいわれてきたことです。

これらはみな、「遺伝」という生命現象が大きくかかわってくることがらです。親と子が似ているのがもっともわかりやすい身近な例でしょう。

遺伝現象は、外見や気質、体質、知能、好み、病気などさまざまなところ、そこかしこに見ることができます。これら、個体それぞれが持つ特徴のことを「形質」、それが遺伝によるものである場合はとくに「遺伝形質」とよぶこともあります。

遺伝する形質は「遺伝子」を通じて親から子へと伝えられていきます。生まれたときから個体に備わっている、「生まれつき」といわれている部分です。このような持って生まれた形質(遺伝要因)と、たべものや運動、勉強、生活スタイルなどの後天的な要素(環境要因)がお互いに影響を及ぼし合うことで、個体の特徴となる個性が作りだされていきます。

自分では変えられない特徴は遺伝子によってほぼ決まる


image by Ermolaev Alexander / Shutterstock

それぞれの特徴が作られるときに影響する遺伝要因と環境要因の割合を考えると、大きく以下の3つに分けられます。

①100%遺伝によるもの
②100%環境によるもの
③遺伝と環境、割合はさまざまだが両方の影響を受けるもの

①の100%遺伝による形質には、身近な話題として何かと取り上げられやすい血液型があります。血液型は生まれたときから命を終えるまで自動的に変わることはありません。瞳の色や髪の色も同様です。カラーコンタクトで見た目を変えることができても根本的に色まで変えることはできませんし、髪の色も染めたりぬいたりすることで変化させることは可能ですが、何も手をくわえなければ劇的に変化をすることはありません。このような特徴は100%遺伝による「生まれつき」の形質です。

②の100%環境の影響を受けて作られる特徴は、実はとても少ないのです。自動車事故によるケガや騒音による難聴など、物理的な要因だけが原因となるものです。細かくいえば、階段から落ちて骨折したというような現象が起こるとすると、そこには「骨折のしやすさ」という遺伝的な要因が絡んでくることも考えられます

つまり、大まかにいえば、自力では変えられない特徴である血液型や瞳の色、髪の毛の色などは100%遺伝子によって決められるものです。このような特徴の多くは、たったひとつまたは少数の遺伝子の働きによって決定されています。

特徴の多くは遺伝と環境が影響してつくられる


image by OlgaOvcharenko / Flickr

一方で、身長や体重、走るスピードといったものは、遺伝的な部分もあり、かつ、環境要因も影響してつくられる特徴で、遺伝と環境が影響する割合は特徴によりさまざまです。

たとえば、がんという病気の原因について考えますと、肺がんの発症には86%環境要因が影響していますが、乳がんの発症は逆に遺伝要因が73%影響するという報告があります[1]。乳がんのリスクをはかるDNA検査を受けたアメリカ人女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、将来乳がんを発症しないために両乳房の切除手術をしたことは数年前に話題となりました。

このような、遺伝と環境両方が影響して作られる特徴はそれぞれが影響する割合が違うこと、遺伝的に影響する部分においてはたいてい数多くの遺伝子(数百とか数千個単位の場合もあります)が影響をおよぼしています。

また、風邪をひきやすい、お腹を壊しやすい、疲れやすい、怒りっぽい、怖がりやすいというような状態も個体の特徴ですが、これらには「体質」や「気質」という生まれながらの遺伝要因と後天的な環境要因との両方が影響をしてつくられていきます。

ここまで読めばお分かりですね!これから連載でお話をする犬の毛色や毛質については、数少ない遺伝子で決定される、ほぼ100%遺伝で決まる特徴になります(ほぼと入れたのは、加齢や病気による影響もあるからです)。

遺伝的特徴を伝える遺伝子ってどんなもの?

さて、冒頭の部分でこれらの遺伝的な特徴は親から子へと「遺伝子」を通じて伝えられるといいましたが、そのあたりをもう少し詳しくみていきましょう。

遺伝子は、親が作りだす生殖細胞の精子と卵子を通じて子へと伝えられます。精子と卵子が受精してつくられる、いわゆる受精卵と呼ばれるたったひとつの細胞が、新たな個体の生命の出発点になります。

遺伝子は、生物の体をつくり、受精卵以降の生命活動を維持していくために必要なたんぱく質などを作るための設計図で、DNA(デオキシリボ核酸)という物質がおおもととなってつくられています。DNAは、A(アデニン)T(チミン)C(シトシン)G(グアニン)という4種類の塩基がひたすら長いひも状にならんでいるものです。一見適当に並んでいるのではないかと思うような連なりではありますが、その中のわずか数%の部分にたんぱく質を作り出すための大切な設計図がかかれています。

遺伝情報がかかれているDNAは通常、二重らせん構造を取ることで安定性を保っています。さらにぎゅっと凝縮した染色体と呼ばれる形をとって、すべての細胞の中にある核と呼ばれる小器官の中に存在しています。DNAは生物が生きていく上で重要な情報が詰まっているため、そんじょそこらの衝撃で簡単に壊れてしまうような物体では困るからです。

染色体の本数は生物種によって異なります。人は両親から23本ずつ受け継がれるので合計46本、犬は39本ずつで78本の染色体を持ちます。この、生物が生きていく上で大切な情報が刻まれた染色体の本数が同じでないと子孫を残すことができません。本数の違う生物種においては交雑しても子孫を残すことができないのです。このような仕組みをもって、生物は種として存続をしてきたのです。

ちなみに、「ウルフドッグ」と呼ばれる犬とオオカミの血が混ざった個体とあったことがある方もいるかもしれませんが、それは、犬と、犬の祖先であるオオカミの染色体の本数が同じため、交配した場合に子を残すことが可能なためです。

ここまで読んで、遺伝なんて想像しにくいし、なんだか小難しそうだし・・・と思っていませんか?どうか敬遠せずにおつき合いくださいね。ちょっとした豆知識を持ちはじめることができれば、遺伝の現象が少しずつ身近に感じられるようになっていくはずです。なんといっても遺伝は私たち人間を含め、生きているものすべてに見られる現象ですから。


次回から7回にわたり、犬の毛色についておはなしさせていただきます。「同じ色に見えるのに呼び名が違うのはなぜ?」とか「突然違う色の子犬が生まれるのは、どうして?」なんていう疑問にこたえていきますよ。どうぞお楽しみに。

Featured image creditANURAK PONGPATIMET/ shutterstock

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] 病気になるのは遺伝?それとも環境?:日経メディカル

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