犬の余生を包み込む場所~『さいごの毛布』

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皆さーん、こんにちは! 読書犬パグのぐりです。

先代のノートパソコンが壊れて、泣く泣く買い替えた話はしましたけれど、新しいパソコンのキーボードにもすぐ慣れて、ぱちぱち快調に打っています。だけど、時々、先代のPCのデータが必要になるため、開けてみるのね。そしたらなんと、壊れていたキーボードが復活している!そんなことってある?

酷使しすぎて壊れたのかと思っていましたが、休ませたら復活したらしい。でもまたいつ壊れるかわからないので、買い替えは間違ってはいなかったと思うのですが、若干トホホな気分になりました…

「老ケンホーム」は実は…

さいごの毛布 (単行本)

さて、そんなトホホな気分もすぐに忘れさせてくれるのが読書!本は僕を元気づけてくれる大切な友だち。今月もいろんな本を読んできたけれど、その中で特によかった1冊をご紹介しますね。『さいごの毛布』(近藤史恵著 角川書店 2014年)は、個性的なかわいい犬たちがたくさん登場する小説です。

主人公の智美は、普通に大学まで出て就職活動をするも、なかなか定職につけませんでした。その理由は自分でもうっすらわかっています。とても内気で、小さな声でしか話せず、人の目を見ることができないのです。実家の家族ともあまりうまくいっていないため、とにかく仕事をしなければならない智美。そんな彼女のもとに、数少ない友人からある日、「老ケンホーム」での仕事をすすめられます。

老ケンホーム。智美は「老健ホーム」だと思ってその話を聞いていました。自分は、人とコミュニケーションをとるのが下手で、声も小さい。お年寄りの方たちに迷惑をかけるだけではないかと不安になりました。ですが話をしているとどうも変です。

「老ケンだから基本大人しいだろうし……食事の世話とか掃除とか、それから散歩とかが大きな仕事なんじゃないかなあ」

「ちょ……ちょっと待って。老ケンって……」

「老ケンよ、老犬。イヌ」(p7)

そうなのです。老健ホームではなく、老犬ホームでの仕事を友人はすすめてくれたのでした。

どんな場所か、うまく想像はできないながらも、そのホーム長である藤本摩耶子と話をした智美は採用され、町からはずれた場所にあるその「老犬ホーム ブランケット」に就職します。

犬の余生に責任をもつ

ブランケットは、犬たちの余生を、責任をもってみる場所。飼い主がきちんとお金を払えば、どんな犬でも引き取るという方針の場所でした。智美の同僚は摩耶子と碧の二人。碧は動物看護士の資格も持っているベテランです。

ブランケットにいる15頭の犬たちはそれぞれのバックボーンをもってここへやってきました。人懐っこいクロは、まだ老犬ではないのですが、とある事情がありここに入っています。時々飼い主の女性が迎えに来るけれど、またしばらくすると戻される。戻ってくるとちょっと悲しそうになりますが、しばらくすると元気なクロに戻ります。

他にも、飼い主が急に亡くなり、遠方に住んでいる子どもは飼うことができないからと入所した犬や、「子どもに死ぬところを見せたくないから」という理由で預けられてきた13歳の犬などが入居しています。それぞれの理由を知るたびに、智美は悩みます。だったら最初から飼わなければいいのに、と。でもブランケットは、正規の値段を支払った人の犬はどんな理由であっても引き取るのです。

ある日智美は、うっかりクロの飼い主の悪口を言ってしまいます。その時摩耶子に、あなたはこの仕事に一番向いていないタイプかも、と言われます。そして自分はクビかと聞いた智美に、摩耶子は続けてこう言いました。

「まさか。向いていないことを自覚して、きちんとわきまえてくれればいいのよ。ボランティアでもないし、この仕事は愛にあふれた素晴らしい仕事でもなんでもない。むしろ、身勝手な人間たちの手助けをする仕事だって」(p97)

そして智美は、は仕事だと割り切って続けることにするのです。

ブランケットが犬の面倒をみてくれると知った人の中には、正規の値段を払わずに門の前に犬を捨てていく人もいます。智美は一度、そうして捨てられた犬の飼い主に、摩耶子と一緒に会いに行きました。捨てられたスピッツは、結局飼い主が引き取らず、いろいろあって智美が自分で飼うことになります。スピッツのララはどこか智美と似た性格で、最初はお互いにけん制しあってなかなか打ち解けることができませんでしたが、それでも徐々に、心を開いていきます。その過程の描写が丁寧で、ああ、作者の近藤さんはよっぽど犬が好きなのだなと思わせられました。

ミステリアスな登場人物

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image by Jen Rusby / Flickr

物語の伏線には、美しい碧が休みの日に誰かに会っていること、それがその後、とんでもない事態に発展する、なんてことが絡められています。ほかにも、摩耶子の前職が学校の先生であったこと、その時の教え子がブランケットをたびたび訪ねてくることなど、さまざまなストーリーが同時進行するつくりになっています。人間には皆、秘密がある。そして犬にも事情がある。でも、今、ここでは一緒に生きていく。そんな状況を描いた、読み応えのある小説でした。

ほのかにミステリーの香りもする本作を、ぜひ読んでみてくださいね。


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Featured image credithellomarylee/ Flickr

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