2匹のスタンダードプードル、作家の家族になる〜『スピンク日記』

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皆さんこんにちは! 天国在住の読書犬、パグのぐりです。

この原稿を書いている今は10月。空が高く、空気が澄んでいて、雲がきれい。秋っていい季節だなあと思います。でも、中旬を過ぎて、だんだん寒い日も増えてきた。冬の足音がこうして近づいてくるのかな? 

寒すぎるのは嫌いだけど、あっつい夏よりは、いいかなあ。何しろ僕たち犬には、毛があるからね。

笑いが止まらない!?

スピンク日記

さてさて、今回は、読みながら何度も「アヒャヒャヒャヒャ!」と笑ってしまった、楽しい本をご紹介しますよ~。

スピンク日記』(町田康著 講談社 2011年)は、あの有名な作家・町田康さんの家族、スタンダードプードルのスピンク君が書いた本です。え?「町田康著」って書いてあるじゃないの、って? そうなんですけれどね、この本の最初のほうにこんな一節があるんです。

…ふと見ると私の鼻先に二本の足があって、これはもちろん、キューティー・セバスチャンの足ではなくて主人・ポチの足、慌てて、赤い椅子に座り机に向かいてキーボードをポチポチ叩いている主人・ポチの左の腕に鼻を押しつけて、うほほい、と言うと、主人・ポチも、うひゃひゃい、と言って私の頬を撫でました。(p7-8)

そう、この本の文章は全て、スピンクの視点から書かれているのです。ちなみに、スピンクは、自分の飼い主である町田さんのことを「主人・ポチ」と呼んでいます。なぜなら、町田さんの前世は柴犬とスピッツのミックス犬、つまり犬だったからだそうなのです。その犬オーラが、スピンクには見えるんだって。不思議でしょ。それでただの「ポチ」と呼んでもよかったらしいのですが、一応飼い主をたてて「主人・ポチ」にしたそうです。

悪徳業者から救われて

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image by ajburcar / Flickr

さて、スピンクが町田家に来てからしばらく後、スピンクの兄弟がいろいろな事情で悪徳業者の手に渡ってしまい、大変なめにあっている、という情報が飛び込んできました。町田さんと、パートナーの美徴さんは話し合います。美徴さんは、一時預かりでもいいから、早く引き取らないと、と。でも町田さんはそもそもスピンクも引き取っているのだから、これ以上無理と。でも結局、その大変な状況にある男の子は町田家にやってきました。彼がキューティー・セバスチャン。普段は「キューティー」と呼ばれています。命名の理由は本書でどうぞ。

さて、このキューティー。スピンクと同じ日に生まれたはずなのに、その後の環境が災いして、町田家に来た当初は本当にひどい状態でした。狭いゲージに閉じ込められていたのか、また日常的に暴力を振るわれていたのか、と思われるような行動や体の傷。町田さんはすぐさま動物病院に連れて行きましたが、元気になるまでには少し時間がかかりました。

そして、キューティーは最終的に、町田家の家族になったのでした。それにしても、悪徳業者って本当にいるんだね。ひどいなあ。僕たち犬のことを生き物と思っていないような扱いで。キューティーのことが書かれた部分は本当に涙なくしては読めなかったです。

主人・ポチが面白すぎる

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image by ajburcar / Flickr

さて、スピンクが書いた内容の大部分は、主人・ポチ、つまり飼い主の町田さんについての記述です。これがとにかく面白くて、どんどん読み進めてしまいました。

特に秀逸だったのは、「失敗の本質」の章です。町田家は山の上に建つ木造一軒家。そこが冬はとーっても寒いそうなのです。あまりの寒さに町田氏は家から10キロ離れた家電量販店に(そこしか量販店がない)、暖房器具を買いに行くのですが、それがことごとく失敗する、というお話。

もうね、「町田さんが得意げに買ってくる→家族(美徴さん、スピンク&キューティー)はみんな若干不安→不安的中→町田さん撃沈」が何度も繰り返されるのです。

この問題が最終的にどうなったかは「暖房問題の結末」の章に詳しいのですが、そこにこんな描写があります。

自分の思いどおりにならないこと、たとえば、部屋が寒いので大枚をはたいて暖房器具を買ってきたのにもかかわらずちっとも暖かくならない、といったようなことがあると、突如として奇声を発し、私に噛みかかる、といったことは幸いなことにないのですが、ガタガタ震えながら酒をガブガブ飲み、忽ちにして大酔、「箕面温泉スパーガーデンっ」と絶叫したり、「床の間には軍馬がもうないよね」と意味の分からないことを植木に語りかけたり、調子の合っていないギターをかき鳴らし、呪いのような詩を朗誦、美徴さんに、「キューティーが怯えているからやめてください」と注意されるなどします。(p192-193)

す、すごいぞ、町田さん。かなり面白いぞ。と、僕はお腹をかかえて笑ったのでした。この本に出てくる町田さんはいつもちょっと笑っちゃう行動をとっているんだけれども、全体を通して読んでみると、犬を愛している人だってことはよーくわかるの。

それは、この本の中にたびたび出てくる、スピンク、キューティーと、町田さんの写真が如実に物語っています。

写真といえば、表紙写真を見て、僕の地上での飼い主だったNさんの娘、nちゃんが「キャー! この犬すっごいかわいい!!」と絶叫しておりました。ちなみにnちゃん、夏休みに初めてスタンダードプードルに会い、それを絵日記に「トイプードルの、大きいのに会いました」と書いていました(笑)。いやいや、もともとはスタンダードプードルのほうが先にいたんだよー。でも、確かに、スタンダードプードルはトイプードルよりも出会える頻度は低いかも。そのスタンダードプードルさんが2匹もいる町田家の、楽しい毎日を、どうぞ皆さんも、本書を読んで、おすそ分けしてもらってくださいね。


スピンク日記
スピンク日記

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町田 康
講談社
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Featured image credit ajburcar / Flickr

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