犬の健康問題といえば、カラダの問題もありますが、精神的な問題もあります。愛犬の精神面における健康に配慮し、上手にサポートすることは、身体の健康を守ることにもつながります。
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犬も精神障害になるのか?
まず、精神障害とは何でしょう?精神障害は、国や診断基準によってさまざまに定義されています。世界保健機関は「症状と苦痛を組み合わせた機能不全」とし、アメリカ精神医学会は「著しい苦痛や社会的な機能の低下を伴っているもの」としています。精神疾患には、うつ病、不安障害、統合失調症、摂食障害、および中毒性行動など様々な症状を呈する状態が含まれます。
犬は精神障害になるのでしょうか?犬に限らず動物が精神障害を患うかは、現在のところ明らかではありません。しかし、動物学者や獣医師の中には人間のように精神を患うことがあると考える人もいます。人類学者のブライトマン博士は、個人的経験および科学的研究に基づく観察を踏まえて「精神状態や行動がうまく噛み合っていないときの人間と動物は、想像以上によく似ている[1]」と述べており、悲しみに直面した人も動物も繰り返し行動をする点を例として挙げています(人間の繰り返しの手洗い行動と、動物の足先の舐め行動が例として挙げられています)。
かつては、犬には人間と同じ精神状態はないと考えられていましたが、動物行動研究や脳の研究などが進んだ結果、「今ではほとんどの獣医師が、動物にも感情があり、人間が患うのと同じ精神的な問題の一部は動物にも起こりうる、ということを受け入れるように教育されて[2]」います。
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犬にもあると考えられている精神障害には、以下のものがあります。
犬の心的外傷後ストレス障害(PTSD)
虐待や戦地への配備は、犬の心に大きな傷を残します。petplaceによれば、配備された犬の5%ほどが心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむことが報告されています。
犬はPTSDから回復することができるのでしょうか?タフツ大学Cummings School of Veterinary Medicineの動物行動学研究員であるニコラス・ドッドマン博士によれば、回復するかは「わからない」とのこと。犬は、心的外傷を引き起こす物事を受け入れることはできるかもしれないが、混乱状態になったり心が引き裂かれる可能性もあるといいます。人間の場合は薬物治療と認知療法や曝露療法などが行われますが、犬は人間と異なり情報を論理的に解釈する訳ではないので、こうした方法が効果を発揮する訳ではないからです。
しかし、傷ついた犬の心を救おうとする試みは継続して行われています。米陸軍の基地フォート・フッドなどには軍用犬のリハビリを行う施設もあるということです。
犬のうつ病
犬も様々な原因から、うつ状態になることがあります。犬は落ち込んでいることを言葉で伝えることはありませんが、その状態は遊ばない、物事への関心が薄れる、探索しない、食欲不振、便秘などの身体症状として現れます。
うつ状態を引き起こす原因として考えられるのは、外傷経験(身体的および精神的虐待)、仲間との死別、引っ越し、閉じ込め、病気などがあります。
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犬の不安(症)
犬も不安を抱えることがあり、これにより屋内(またはトイレ以外)での排泄、下痢、嘔吐、破壊行動、強迫障害、分離不安などを引き起こします。犬の不安は飼い主との分離や、大きな音(雷や花火)、周囲の環境変化など、あらゆるものが原因となって引き起こされます。
不安が原因と考えられる犬の行動や症状には、次のものがあります。
- 分離不安
- 社会不安
- 騒音不安
- 攻撃行動
- 強迫障害
- 身体の不調(病気)
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犬の奇妙な行動と精神障害
犬は奇妙な行動を見せることがあり、それらは精神障害に影響された結果である可能性があります。奇妙な行動とは、過剰に注意を求めること、常に隠れること、強迫的な行動、胃腸の問題、空気を食べる行為、自らをひっきりなしに舐める行為、多食・過食、食欲不振、絶食、異嗜(岩、塗料、木などの食べられない食べ物を食べる)、およびリソース・ガーディング(所有物を守る行動)などです。
ただ、注意しなければならないのは、それら全てが精神障害を原因にするものではなく、身体的な原因(病気など)が引き起こしている可能性もあるということです。
例えば上に挙げた奇妙な行動は、食道の問題、感染症、鉛中毒、てんかん、クッシング病、歯科疾患、中枢神経系障害、代謝疾患、ジステンパー、脳炎、腫瘍、内部寄生虫、消化器障害によっても引き起こされることがあるのです。2012年の研究によれば、過度の舐め行動が見られた19匹の犬のうち、14匹には胃腸障害を有していました。また別の研究では強迫性障害と診断された7匹の犬は、胃腸の問題を抱えていたこともわかりました(1匹には頭蓋奇形の問題があった)。
臨床的兆候がないことは、行動の問題に医学的理由がないことを意味するものではありません。なんらかの奇妙で困った行動をするときは、心の状態と身体の状態の両方を疑ってかかる姿勢が必要です。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Braitman, L. (2014). Animal madness: How anxious dogs, compulsive parrots, and elephants in recovery help us understand ourselves. Simon and Schuster.
[2] Can a Dog Really Suffer From Depression? | Psychology Today
犬にも「ストレスで眠れない日」がある〜”負の体験”が睡眠の深さに影響 | the WOOF イヌメディア
嫌なことがあった日は、鬱々として眠れない…。そうした夜を過ごすのは人間だけではないようです。 ペットの犬もストレスを経験した日は、眠れぬ夜を過ごすという研究が発表されました。 研究を行ったのは、ハンガリーの研究機関に所属する研究者たちのチーム。眠っている犬の脳波を記録することにより、起きている時の経験が睡眠に与える影響を明らかにしました。 …