セラピードッグは仕事中にストレスを感じるのか?

サイエンス・リサーチ
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最近では様々な場所で活躍している「セラピードッグ」。学校やデイケアなどを訪問し、人々のストレス緩和や精神的な支えになっています。

犬たちが人の支えになるのは愛犬家としては嬉しい限りですが、一方で「犬のストレスはどうなっちゃうの?」と考えたことはありませんか?癒しの仕事をする犬が、ストレスの受け皿となり苦しんでしまうということはないのでしょうか?

犬がセッション中に受けるストレスは「高くない」

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image by Ohio University Libraries / Flickr

動物との触れ合いが人間のストレスを減らすことは研究などにより報告されており、最近は病院だけでなく図書館や裁判所、空港や大学などの様々な場所で、「セラピードッグ」の導入が進んでいます。

セラピードッグとは、学校、病院、養護施設などの施設を訪ね、他の人の生活を改善するために飼い主とチームで働きかける犬のこと[1]。犬たちは訪問した先で、初めて会う人に接したり(撫でられる)、リハビリテーション療法に参加するなど、人々と様々な形で交流することになります。

似たような”お仕事ワンコ”には介助犬がありますが、セラピードッグは介助犬(盲導犬や聴導犬などに代表されるサービスドッグ)とは異なります。介助犬は、障がいのあるハンドラーを支援するよう訓練された犬であり、仕事中に他の人と交流することはありません。これらの犬は法律などで受け入れが義務化されていることが多く(日本では身体障害者補助犬法)、資格を持つトレーナーによる特別な訓練が必要です。

決まったハンドラーと仕事をする介助犬に比べ、セラピードッグは様々な場所でたくさんの人と触れ合います。このためセラピードッグに関わる仕組みそのものを「犬たちのストレス下に置く非倫理的な取り組み」と考え、「犬は人間のストレス軽減の犠牲になっている」と批判する人もゼロではありません。

これらの疑念に完全に答えるものではありませんが、アメリカの研究チームによる研究は、この問題を考えるうえでの参考にはなりそうです。チームは病院を訪問するセラピードッグについて、生理および行動への影響を測定し、犬たちが受けたストレスレベルを「高くない」と結論づけました。

訓練されたセラピードッグには親和行動が多くみられた


image by DebMomOf3 / Flickr

研究を行ったのは、American HumaneのAmy McCullough氏率いる14人の研究者チーム。 the Human Animal Bond Research Institute (HABRI)の資金援助を受けて行われた本研究は、Applied Animal Behavior Science誌に掲載されています。

研究は、セラピードッグの訪問がある米国内の5つの病院で、直接観察により行われました。チームは、治療セッションでの犬の行動をビデオに記録し、これらを親和的(友好的や社会的)行動とストレス/不安行動に分類してスコアとしてカウントしました(合計400以上の治療セッションの動画がコード化された)。

また、犬たちからは唾液サンプルが採取され、コルチゾールレベルが測定されました。ストレス関連ホルモンであるコルチゾールは、数値が高ければ高いほど、本人(犬)が感じているストレスのレベルが高いとされ、ストレス研究で使用されることの多い尺度です。この研究では、1匹につき5回の唾液採取が行われ、合計600ほどの唾液サンプルが収集・分析されました。5回の採取の内訳は、普段の生活(家で朝・昼・晩)と仕事中(病院に着いた時、サービスベスト着用時)でした。

結果、ビデオによる行動分析およびコルチゾールレベルのデータ分析のいずれにおいても、不安やストレスを確認できませんでした。ビデオに映っていた犬の行動は、不安というより友好的かつ社交的なものが多くみられ、コルチゾールレベルについても普段の生活と仕事中で差が見られなかった(ストレスレベルの増加が観察されなかった)のです。

研究者らは「この結果は、AAI(animal-assisted interaction)が実施する小児ガン治療に参加したセラピードッグが、生理的ストレス反応を増加させないこと、そして親和行動に比べてストレス関連行動が有意に多くはならないことを示している」と結論づけています。あくまでも研究が実施された病院でのセッションに限定されての結論ですが、人を癒す仕事がセラピードッグのストレスを高めるものではないことが示されました。


繰り返しになりますが、本研究の結果はAAIが実施した治療セッションでのセラピードッグ”に限られるという点には注意しなければなりません。言い方を変えれば「適性のある犬が適切な訓練を受け、受け入れ体制の整った施設をルールに従って訪問している場合」に限られるということです。

適性もなく訓練も受けていない犬を馴染みのない場所に連れて行き、不特定多数の人間に触られれば、犬はストレス関連行動や回避行動を見せるでしょう。犬の多くは人間との交流を好みますが、どんな状況でも社交的であるとは限らないのです。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] What is a Therapy Dog? – American Kennel Club
[2] McCullough, A., Jenkins, M. A., Ruehrdanz, A., Gilmer, M. J., Olson, J., Pawar, A., … & Grossman, N. J. (2017). Physiological and behavioral effects of animal-assisted interventions on therapy dogs in pediatric oncology settings. Applied Animal Behaviour Science.
[3] HABRI | New Research Says Therapy Dogs Are OK! HABRI-Funded Study Finds Dogs Are Not Stressed When Visiting Pediatric Cancer Patients

Featured image credit tinyowl7 / Shutterstock

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